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今年も暑い夏でした。お盆時期の「夜の動物園」では、地元の方を中心に多くの来園があり、賑わいを見せていました。やはり家族連れが多いですが、近年は若者同士のグループも増えている印象です。オオカミの遠吠えを聞いて盛り上がったり、夜店で買った軽食を美味しそうに食べたりしている姿を見ていると、自然とこちらも楽しい気持ちになってきます。この春に生まれた子ダヌキの行動には、いつもわくわくさせられますが、動物も人も、若者や子どもには、大人を元気にしてくれるパワーがあるようです。 今年は、初めて「あさひやま・キッズ・ZOO」というイベントを6月に実施しました。この企画は、子ども達だけを対象とした特別開園で、保護者や引率者には休憩所で待機してもらいました。子どもの成長に大人のサポートは欠かせませんが、知らず知らずのうちに自由な発想や自主性を奪っていることもあるかもしれません。その子が興味を持った「今一番」の時間を大切にできればと思い、動物園を子ども達だけの空間にしたのです。親の手を離れて、勇気を持って一人で園内に入っていく子どもの後ろ姿を見て、我が子の成長の一端に立ち会えたとの声もいただきました。 この他にも動物園では、「サマースクール」を毎年実施しています。小学校高学年を対象とした飼育実習で、今年で47回を数えるほどの伝統があり、実は、この参加者から今の飼育スタッフも生まれています。さらに、9月には「スタディキャンプ」として、小学生を対象とした宿泊体験も試みます。動物の気配を感じながら園内で一晩を過ごし、五感をもって体感することで、動物や環境問題への理解が深まることを期待しています。 このように、動物園は次代を担う子ども達にとって貴重な経験や多様な学びを提供できるフィールドです。園内で活き活きとしている子ども達の姿を見ながら、このフィールドをさらに充実させていこうと思った、今年の夏でした。
令和6年9月5日
旭山動物園 田村
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いよいよ夏本番です。猛暑を想定して身構えていたのですが今のところ(7月下旬)猛暑にはなっていません。今年は夏本番の前に、ぺんぎん館、ほっきょくぐま館の日よけの新設やもうじゅう館でも日射対策の擬岩の改修、レッサーパンダの日陰兼遊具の設置、さらには獣舎内の空調新設などを行いました。毎年記録を塗り替える想定外が恒例になっているのでまだまだ気を引き締めて対策を続けていかなければと考えています。内地の動物園の方が、冗談半分、本気半分で夏場は動物園の開園はできなくなるかもねと話していました。外出自粛を行政として発信する中で屋外施設メインの動物園が集客を促すようなことはできなくなるのではとの懸念が現実味を帯びているからです。 さてエゾタヌキのお話です。今年ゆっくりロードのエゾタヌキのペアが繁殖に成功して8頭の子タヌキが順調に成長しています。両親は幼獣での保護個体です。巣箱内に設置したカメラで出産の様子を一部始終観察できました。メス親(うみ)が産み落としたそばからオス親(こたろう)が子をなめていて、出産は長時間に及んだのですが、どちらがうみかわからないくらいにこたろうがずっと寄り添っていました。オス親がここまで出産に関わるのを目の当たりにして、とても新鮮な驚きでした。こたろうは時にはうみに餌を運び、積極的に子守をし、巣を守っていました。生後一ヶ月頃から子ダヌキたちはおっかなびっくり巣の外に顔を出しプチ冒険をするようになりました。生まれた8頭の子は今ではすっかりタヌキ模様になっています。 そういえば30年くらい前の話になるのですが、繁殖しても子育てをしないためにエゾタヌキの人工保育に取り組みました。生後一ヶ月令くらいで毛の色が親と同じになる頃に足の裏や目の周りの皮膚がカサカサになり痂皮が形成されミルクは飲むのに成長が止まり痩せて死亡してしまいました。当時できる限りの検査はすべてしたのですが原因がわかりませんでした。翌年も同じ結果になってしまいました。当時ミルクは牛乳や安価な一般的な犬用ミルクなどを使用していました。3度目の春、段ボールに入れられた子犬が飼育事務所前に捨てられていました。見るとタヌキと同じく足の裏、目の周りなどが痂皮で覆われていて痩せていました。これは!と思い犬の疾病を調べたら、剛毛犬種で成長期に亜鉛が欠乏するとこの症状が出ることがわかりました。この子犬に亜鉛の添加剤を混ぜたミルクを与えるとみるみる症状は改善し、無事にもらい手を見つけることができました。そして3度目の挑戦、亜鉛の添加剤をミルクに混ぜエゾタヌキの人工保育に成功しました。ふと子ダヌキたちを見ていて思い出しました。
令和6年8月7日
旭山動物園 坂東
動物園内に「動物図書館」があるのをご存じですか?こども牧場の隣にある動物資料展示館の2階にあるんです。決して広くはありませんが、絵本・児童書・図鑑・専門書など、動物に関する本を2,500冊以上蔵書しています。開館時間中は、図書館スタッフが常駐しており、調べ物の相談をすることもできます。生きものについて興味や知りたいことがあれば、ここでその答えが見つかるかもしれません。 拾った羽根がどんな鳥のものか調べたいと来館された方に、原寸大写真図鑑をご紹介し、羽根の実物と図鑑の写真を照らし合わせて答えが見つかり、喜んでいただけたこともありました。生きものに関する「大きさ」や「色味」といった、インターネットで調べても正確なイメージを捉えづらい内容について調べる必要があったので、図書館資料が役に立ちました。 動物図書館だけにしかない資料もあります。歴代図書館スタッフ渾身の力作「おりがみえほん」は、動物の顔などを折り紙で折って貼り、楽しみながら園内の動物について学べる、持ち帰りOKの手作り冊子です。また、こうほう旭川市民「あさひばし」で毎月掲載している「動物園からの手紙」も第1号からのスクラップブックを作成しており、自由に閲覧いただけます。 動物図書館では、来園者が気軽に立ち寄っていただけるよう、スタッフによる絵本の読み聞かせや、『旭山動物園だより』、『あさひやまどうぶつえんみにだより』の作成、配布なども行っています。また、昨年から新たに設置している「だれのもの?」コーナーは、園内動物の貴重な毛や羽根を展示し、触れる体験ができたりと、老若男女問わず好評で、幅広く楽しんでいただいています。目的がなくても全然問題ありません。ふらっと立ち寄っていただくだけでも、きっと何か発見があると思います。来園された際は、ぜひ動物図書館にも足を延ばしてみてください。
令和6年7月22日
旭山動物園 沼田
4月8日からの約20日間にわたる休園期間は、飼育員にとって一年で最も忙しい時期となります。一日のスケジュールとしては、まず午前中に各担当動物の飼育作業をあらかた終わらせ、13時から2時間の共同作業。砂や砂利をねこ(一輪台車)で運び入れたり、放飼場の改善やプール掃除などやること満載です。放飼場の改善は太い丸太を立てたり組んだりと、なかなかの力仕事です。ライオンの放飼場に組んだ丸太のお立ち台は必見です。また今年はチンパンジーやオランウータンなどサルの仲間に消防ホースを編んだハンモックの設置が流行しました。あまりの売れ行きに在庫のホースがなくなる勢いでした。「みんなくつろいでくれるかなぁ?」共同作業が終わったら動物の収容や給餌などの飼育作業をこなし、今度は看板の更新です。旭山動物園は各担当者が手書きでパネルを書くのが伝統です。手書きには温かみがあり、担当者の想いがより伝わりやすいと感じています。ぜひご覧ください。 そしてこの時期、動物たちにもいろいろな動きがありました。主なところではゴマフアザラシの交尾、ホッキョクグマのホクトとピリカの同居、アムールヒョウのデンとみらいのペアリング、シマフクロウのふ化など、皆さまに明るいニュースと命の輝きをお届けできるよう奮闘します。そんなこんなであっという間に夏期開園日です。ゴールデンウィークは好天に恵まれた日が多く、来園者のはじける笑顔を見ると4月の苦労も吹っ飛びました。 この日記が掲載される頃にはは過ごしやすい気候になっていることでしょう。ぜひ初夏の旭山で輝く動物たちに会いに来てくださいね。
令和6年6月11日
旭山動物園 中田
4月から旭山動物園の園長となりました田村です。これから坂東統括園長とともに「二人三脚」での体制となります。どうぞよろしくお願いします。今後このコーナーは、何名かのスタッフによる持ち回りで書かせていただきます。 さて、この原稿を書いているのは冬期開園が終了し、休園期間となったばかりの時期です。新しい仲間(職員)も入り、慣れない環境で頑張ってくれています。休園期間は何かと慌ただしいです。冬仕様から夏に衣替えするだけでなく、施設のメンテナンスや修繕が目白押しです。飼育スタッフは手書き看板の更新や放飼場のアレンジと、動物の魅力を伝えるのに工夫を凝らす時期でもあります。開園間近になるとその慌ただしさがピークを迎え、そのまま一気に年間で最も混雑するゴールデンウィークに突入です。この日記が更新される頃には、山場を越えて少し一段落できるので、入って来た職員が仕事のペースを掴めるのもようやくこの時期からです。 私事ながら、動物園勤務も6年目を迎えました。それまでの勤務場所と違って、動物園に来てからは圧倒的に季節を感じるようになりました。通勤時の車窓から見る景色の移ろいに心を動かされることも少なくありません。もちろん園内も季節感満載です!春の桜に始まり、新緑の木々、蝉の鳴き声、鮮やかな紅葉、初雪の凜とした美しさ、どれもが街中にいるもよりもずっと深く感じられます。 たまに動物園に来られると、せっかくだからといろいろな動物を駆け足で観てしまいがちですが、観る動物をできるだけ絞って、ゆっくりコーヒーでも飲み、その時々の季節を感じながら公園のように過ごすのもお勧めです。旭山動物園は、地元の誇れる施設として思っていただけるだけでなく、皆さんに身近な存在でありつづけたいと思っています。どうぞお気軽に足を運んでください。
令和6年5月7日
坂東前園長の思いが込められた
モニュメント
先日、市内で行われたヒグマの冬眠調査に同行してきました。さすがに冬眠穴は見つけられないので、冬眠から目が覚めて雪の上に足跡がないかを調査しました。冬眠明けのヒグマがいれば水を求めて移動するはずなので、冬眠しているであろう山と渓流の間の斜面を歩き、横断する足跡を確認するという作戦です。調査地では足跡を確認することはできませんでした。思ったより雪が深くまだ冬眠中の可能性が高いと思われました。今年は春期捕獲も施行されることとなっておりヒグマとの関係に変化の兆しが出るのか注目です。 冬期開園も無事に終わりました。想定よりも来園者が多く、特に海外からの来園者の多国籍化が進んでいる印象でした。冬の北海道の観光はこれからますます伸びるでしょう。動物園として楽しんでもらうこと+気づいてもらうことを充実させていかなければと思います。もぐもぐタイムの解説に英語を交えるなど皆それぞれに試行錯誤しながら前向きに取り組みを始めています。 そういえば、博物館法が改正されたのを機会に、旭山動物園は登録博物館を目指し申請をし登録博物館となることができました。今までは博物館に相当する施設と言った曖昧な位置づけだったのですが、国が認める正式な博物館(ミュージアム)となることができました。収蔵物(動物)の展示手法や研究、来園者へのガイドなどの手法、外部との連携や活動が評価されました。動物園は地球の命を扱う貴重な博物館だとの思いがずっと昔からあって、20年以上前に建てたぺんぎん館から現在に至るまで各館のモニュメントには密かに○○ミュージアムと英語で表記していました。百数十万人が訪れる地方の博物館は数えるほどしかないはずです。もちろんこれはスタートラインなのですが、改めて動物園の役割を見直しより充実した動物園(ライフミュージアムかなぁ)を目指していきます。
令和6年4月7日
旭山動物園 統括園長 坂東 元
立派なフランジを持つ
オランウータンのジャック
異常高温の日が続き驚くほど雪解けが進んでいます。毎年なにか観測史を塗り替える気候の異変が起こりますが、それが当たり前になってきました。馴れていいことでは決してないのですが・・・。 日記を書いている2月は、学生との道東ツアー、さらにボルネオでの活動と続き少々オーバーヒート気味です。 ホッキョクグマのホクトが円山での繁殖のために一時的に旅立っていたのですが、戻ってきました。ピリカとの繁殖のためです。ホクトが旭山に到着し、麻酔をかけていた同時刻に、オランウータンのジャックが死亡しました。ジャックは42歳、高齢ではありましたが老齢とは言えない年齢でした。昨年の暮れから尿路結石を患い、回復したのですが、その後すぐに動きが緩慢になり、力が入らない状態になりました。意識ははっきりとあり食欲もありました。検査結果や症状から心臓系の疾患と推察し、投薬での治療を行ってい安静に保つことに努めていましたが、状態が急変し死亡となりました。ジャックは平成14年、前年にオープンした空中散歩の「オランウータン舎(当時の名称)」にリアンのペアとなるべく広島の安佐動物公園から引っ越してきました。当時は、ほっぺたのフランジが発達したオス成獣との新たなペアリングは行わないのが通例でした。オスとメスとの体格差が著しく、単独生活が基本なので、オスの感情次第でメスが死亡してしまう事故に繋がる危険があるからでした。異例のペアリングと言うことになります。ペアリングは性成熟に達しない年齢の個体で行われることが多かったのですが、これは本来メス親や兄弟と過ごす成長の過程を経ておらず、同居は成功しても繁殖に至らないケースがほとんどでした。ジャックもメスとの同居はしていたのですが繁殖には至らず、同居メスが先立ったため、さらなるペアリングは断念し単独で暮らしていました。他園からは、ジャックとのペアリングはやめた方がよいのではと言われたのですが、見事にペアリングは成功しリアンとの間に子をもうけることができました。あのオランウータン舎は、まさにこのことを目指して建てた施設でした。ジャック、リアンの繋がりでボルネオでの「恩返しプロジェクト」が生まれ、ボルネオゾウの一時避難施設の建設に繋がりました。 ジャックの存在があることで森人(モリト)のフランジは大きくなりませんでしたが、ジャックの存在がなくなりモリトのフランジはみるみる大きくなると思われます。世代のバトンタッチです。 今年もたくさんの命のヒストリーが生まれ、未来へと続いていきます。
令和6年3月6日
旭山動物園 園長 坂東 元
放飼場の様々な所に興味を持つ 好奇心旺盛な「すなすけ」
冬も後半。この日記が公開される頃には、雪あかりの動物園の開催も目の前ですね。日記を書いているのは1月下旬。厳しい冷え込みが続かず、アイスキャンドル作りに不安を抱えながら準備を進めています。 今、最終調整に追われているのが、知床から釧路までを巡り、人と自然との関わりを考える学生ツアーです。観光・ボランティア・漁業・保全・研究など、様々な形で自然と向き合っている方々の思いや考え方を、体験を通して学びます。コロナ禍で中断していましたが、学生さんを連れたスタディツアーは過去に2回マレーシアのボルネオ島サバ州で行いました。学生の皆さんが、将来の進路を考える上でも、大人になっても、環境問題や野生動物との関わり方を、「人ごと」ではなく「自分ごと」として考えられる人になって欲しいという思いで、このツアーを続けています。厳冬期での屋外体験が多いので、皆さんが体調を崩さず、天気も見方してくれることを今から祈っています。 さらに今月は、ボルネオ島での活動も動きます。コロナ禍での活動空白期間の現状や今後の考え方や関わり方などを、現地に赴きサバ州政府と協議します。本格的な活動再開に向けた仕切り直しになります。 あっという間に春の予感です。春といえばヒグマが冬眠から覚めますね。昨年はドングリの不作などでヒグマの栄養状態が悪かったため、今年は子の生まれる数が少ないと予想されています。これからヒトとヒグマの関係はどうなっていくのでしょうか?旭山動物園の「すなすけ」は、たくましく成長しています。好奇心旺盛な愛らしい姿から、近寄りがたい雰囲気を放つ姿に見る見る成長していくでしょう。つくづく、ヒグマは北海道の自然の優しさと厳しさの象徴なんだなと感じます。
令和6年2月6日
娘の「ゆめ」が他の動物園へ移動し
1頭での放飼となったピリカ
皆さん、新しい年を迎えました。今年もよろしくお願いいたします。 辰年はなかなかイメージに合う動物がいなくて動物園的には困ってしまってしまうこともあります。爬虫類の○○ドラゴンとか飼育していれば象徴的に辰年っぽいですね。水族館ならタツノオトシゴでしょうか。ちなみに、辰(龍)は十二支で唯一想像上の生き物ですが、架空でも存在すると信じられていた生き物だとか、本来はワニや恐竜の化石をイメージした動物だったのではないかなど、その由来には諸説あります。自分としては、自然の圧倒的な力をコントロールする存在なのではないかと思います。今年は地球に優しい龍でいてくれたらと願います。 これを書いているのは12月上旬、天気予報とにらめっこをしています。今年中に安定した根雪きになるのか、まだ確信が持てません。過去一番遅かったペンギンの散歩の開始日は12月28日。記録更新にならなければいいのですが…。 ここ数日は日中解けた雪が夜に凍るので、翌日の午前中は園内もツルツルで大変です。融雪や砂まきをしても、海外客の中には夏のスニーカーの方も多く、手すりにつかまって歩くのもままならない状況です。それでも雪と氷を楽しんでいる様子が救いではありますが。 ほっきょくぐま館を見ると、ピリカが一頭でいることがまだ不自然に感じますが、ライオンの子フウとレイ、カバの凪子も独り立ちできる場を見つけなければとも思います。みんなたくましく育っており、胸を張って送り出せることがうれしくもあるのです。 さて、今年はどんな一年になるでしょうか。良い年にしたいなと思います。皆さんにとっても良い一年でありますように。
令和6年1月7日
フッターです。