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旭山動物園について

旭山動物園ヒストリー・読み物 旭川叢書「きたの動物園」(5)

旭川叢書
「きたの動物園-旭山のすてきな仲間たち-」から
著者 菅野 浩

平成9年、旭山動物園30周年記念の時に刊行された本(現在は絶版)の中から、
抜粋して動物たちや園でのお話を紹介していきます。

昭和55年(1980) ナナのワラジ ナナはマルミミゾウ

ナナのゲタの写真
ナナのゲタ
包帯を巻いた上に紐で固定し、
その上からまた包帯を巻いている。
5歳頃のナナの写真
5歳頃のナナ
この頃はまだパンフレットには
アフリカゾウとして記載されていました。
ゲタの材料のイラスト
ずれて外れないように足の外側を被うように作ってナナに履かせた。
1.自転車のチューブを切ったモノ+2.包帯+3.ひもで固定

ナナのワラジ

ゲタを履いたナナのイラスト

ナナは、入園時ちょうど青年になりかけでしたが、成長による体重の増加に伴って足の負担が大きくなり、四肢の姿勢が悪くなってきました。足首がぐらついて足裏のパッドが片減りしてしまうのです。
テーピングで足首を固定してみたり、十分歩かせて足を丈夫にしようと、毎日園内を2時間以上も散歩させたり、飼料も工夫し、ビタミン剤やカルシウム剤も投与しましたが、病状は改善されません。足の裏は片方ばかりが減ってしまって、血さえ滲んでくる状態です。
困りはてて、木のゲタをつくってはかせましたが、すぐに壊れたり、はきごごちが悪くてうまく歩くことができなかったりで失敗でした。
万策につきた時、飼育担当者がすばらしいアイデアを思いつきました。ワラジをはかせてみたらどうだろうというこうとです。
早速、すり減った側を厚くしてワラジを作ってはかせてみると、ピッタリと足について、歩行にも支障がありません。足の姿勢も正常に矯正されています。アフリカゾウのナナの足の治療に、日本の伝統のワラジは実にすごい威力を発揮したのです。
この後、ナナは足の支障で悩まされることはありませんでした。

ナナはマルミミゾウ

ナナが入園してから10年程過ぎた頃のことです。年からして、もう立派な大人になっているはずのナナですが、体格が通常のアフリカゾウと比較して小さすぎることが話題になりました。コジれてしまって成長できなかったとも考えられますが、特にコジれるような病気もしませんでしたし、飼育管理上問題になるようなこともありませんでした。それにコジれたとしても少々小さすぎる感じです。
ひょっとすると、ナナはマルミミゾウではないだろうかという疑問が出てきました。マルミミゾウというのは、アフリカゾウとよく似ているのですが体形はずっと小さく、同じアフリカに生息していますが、森で生活しています。
マルミミゾウに関する文献を取り寄せて検討し、耳がアフリカゾウと比べて大きく形も違うことを確認し、さらに、体形の計測データや写真をゾウの専門家に送って検討していただいた結果、ナナはマルミミゾウに間違いないということになりました。

当時の頃を小菅園長に聞きました。

ナナのイラスト

ナナが旭山動物園に来た頃は、すっかりアフリカゾウだと思いこんで飼育をしていたといいます。
ナナが成長せず小柄なのを心配した当時の飼育係は、かなり思い悩んだそうです。3年程たって蹄の数の違いや体形から「変だ、変だ。」と感じていた園長は、マルミミゾウなのか悩んだ時に、上野動物園現園長の小宮輝之氏に相談しました。すると、小宮氏は旭山動物園まで来て、「体が小さいこと、蹄の数が違うことと、ナナを上から見たときに耳が重なることから、間違いなくマルミミゾウだ!」と同定しました。
こうしてナナがマルミミゾウだということが分かったそうです。
当時、日本には、旭山動物園・沖縄子どもの国動物園・徳山動物園の3か所しかおらず国内では希少なゾウでした。