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旭川叢書 「きたの動物園-旭山のすてきな仲間たち-」から 著者 菅野 浩
平成9年、旭山動物園30周年記念の時に刊行された本(現在は絶版)の中から、 抜粋して動物たちや園でのお話を紹介していきます。
新しいゴリラ舎も完成し、1頭で寂しい思いをしていた「マリ」に「ゴンタ」が昭和53年4月にやって来ました。マリより2歳年下です。初めのうちは、年上のマリがゴンタをリードして、ゴンタもマリを頼り、仲良くうまく行っていたのですが、ゴンタが成長してマリよりもずっと体格が良くなってからは、どうもうまくいかなくなってしまいました。 ゴンタもマリも、小さい時に親から離されて人間に育てられ、群れの仲間や親との生活の中で成長していないため、お互い仲間としてのコミュニケーションがうまくできないようすです。それどころか、自分を人間と思い込み、お互い、相手を仲間だと思っていないのかもしれません。 ゴンタは外見は実に堂々として風格のあるシルバーバック(背中の毛が白くなったおとなのオス)に成長したのですが、群れを統率するリーダーとしての自覚は育っていないようです。マリに対する優しい心づかいも見られません。マリも群れの一員としての訓練も経験もなく、マリにとってゴンタは一方的に暴力を振るってくる存在でしかないようです。
旭山動物園のゴリラたちは現在のオランウータン舎にすんでいました。彼らは遊びで来園者に砂をかけるので、柵を改修し、来園者から遠ざけたこともありました。 その後も「ゴンタ」と「マリ」は仲が良くなることが無く、喧嘩をして負傷することも幾度かありました。治療に苦労しながらも何とかお互いコミュニケーションができるようになって欲しいと願っていたのですが、うまくいきませんでした。しまいにはお互い避け合って無視して檻の端と端でそっぽを向いていました。 野生の場合、血縁関係の個体は繁殖の対象にはならないと言われます。ゴンタとマリは飼育担当者を母親と思い込んで育ったので、心理的には姉弟の関係があったことも考えられるかも知れません。そして16年後の平成6年、あの事件が起きてしまうのです。
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