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旭川叢書 「きたの動物園-旭山のすてきな仲間たち-」から 著者 菅野 浩
平成9年、旭山動物園30周年記念の時に刊行された本(現在は絶版)の中から、 抜粋して動物たちや園でのお話を紹介していきます。
昭和49年10月にうまれたホッキョクグマの赤ちゃんは公募によって「コロ」と命名されました。ユキの懸命な子育てぶりと、コロの可愛さが人気を呼び、順調な成長でした。ところが昭和50年5月17日、コロが隣の檻の父親シロウと鉄格子越しに遊んでいて、左側肢を噛み切られてしまいました。 その日はちょうど5月11日に逝去された中俣充志先生(初代園長)の葬儀の日でした。私(菅野前園長)は札幌の葬儀会場について、先生の遺影を見上げながら、病床でホッキョクグマの誕生をことのほか喜んで下さったお姿を思い起こしながら、葬儀の始まるのを待っていました。そこへ事故の緊急連絡が入り、そのまま旭川にとって返しました。帰りの列車の時間の何と長く感じられたことか。動物園に帰りついた時には、コロは手術(現園長、小菅が執刀)が終わって麻酔のため眠っていました。檻越しに父親のシロウと遊んでいて、鉄格子のわずか4センチメートルの隙間から左前肢を出して肘から先を噛み切られてしまったのです。プールに逃げたため出血量が多くなり、プールの水が赤くなった程です。やっとの思いでプールから上げて寝室に誘導して、母親と離して麻酔をかけ手術するまでに、2時間以上もかかってしまっています。出血量が多く、助かるかどうか予断を許しません。 父親が我が子の前足を噛み切ってしまうなんて、とんでもないことだと考える人がほとんどだと思いますが、ホッキョクグマの場合、シロウには父親という自覚はありません。雌と交尾する雄は存在しますが、出産はもちろん育児ももっぱら雌だけの仕事で、雄は全く関与せず、したがって、父親という存在はないのです。 春は彼らの繁殖交尾の季節ですが、子を連れた雌にとって、発情した雄は、雌に近づこうとしてじゃまになる子を殺してしまうこともある危険な存在でさえあるのです。 雄のシロウを責めることはできません。コロの前足が出てしまうような施設にしていた私たちの責任です。コロにいくらあやまっても足りない気持ちです。「ごめんねコロ、死なないでくれよ」と念じながら見守っていました。 真夜中すぎ頃、コロがフッと目を覚まして頭を動かしながら、しきりに何かをさがすような様子を見せました。バットに好きな牛乳を入れてそっと差し出すと、ピチャピチャと飲み始めました。「ああ、これでコロを助けることができる。」とその時に確信しました。 その後、コロは驚異的な生命力とがんばりで回復して元気になり、旭山動物園の三本足のホッキョクグマとして有名になりました。
コロは特に病気もせず、足のケガを除いては元気に発育していきました。 昭和63年、待望のお嫁さん「コユキ」(現存)が来園し、二世誕生を願ったのですが、気の強いコユキとうまくペアリングできませんでした。 その後、しばらく1頭でくらしていましたが、平成2年4月に15歳で亡くなりました。
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