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旭山動物園について

旭山動物園ヒストリー・読み物 こんにちは(3)

昭和54年の「こうほう旭川市民」より

旭山動物園からこんにちは

どうぶつえんからコンニチワ

五月の中ごろ、市内旭岡からモズの雛2羽がつれてこられた。きっと巣立ちの練習に失敗してしまったのだろう。巣の下に落ちていたそうだ。小さな鳥籠のすみに2羽肩を並べていた。
しかし、さすがにすずめの仲間の猛禽だ。小さく切った肉を見つけると、素早く引ったくり、すぐさまピンセットに向かって大きく口を開けた。こんなに早く餌(え)につくのも珍しい。
チゴハヤブサ、コチョウゲンボウたちがこの新入りをじっと見つめていたが、まったく気にかける様子もなく食欲旺盛で、じきに下に置いた皿の中からエサを取って食べるようになった。
7月のある朝、ギャーッ、ギャーッと大声で飛び回っている中に、大きな肉片を入れた。二羽同時に飛びかかり、さんざ綱引きの末、勝ったほうが、止まり木の小さく突き出た枝に、その肉片を引っかけようと一生懸命。ようやく枝に肉が突き刺さった。モズの早贄だ。
見ているうちに3か所の枝に肉をぶら下げた。どうして早贄を作るんだろう。食糧の貯蔵だろうともいう。もちろん後でそれを食べることもあるが、実際にはそのまま忘れてしまうことも多いそうである。この2羽は、朝、早贄を作って昼ごろにはもう食べてしまう。しかし、それからは、毎日同じ枝に早贄を作っている。

モズのイラスト

秋になり体も大きく、尾も長くなり、体色も赤く美しくなった。もうどこから見ても立派なモズである。2羽は雄と雌なのか、1羽がが止まり木の上のほうで、首を伸ばし、尾を跳ね上げ、テーッテッテッテッ、ギャッギャッと高なきを演じている間、1羽は下のほうでジェッジェッと鳴いている。
最近、第一保護室が手狭になったので、モズ、ヒバリ、キジバトなど小さな鳥だけを第二保護室に引っ越した。今まではチゴハヤブサの甲高いなき声にやや圧倒されていたモズも、ここにきてからは、大得意のモズの高なきを思う存分叫んでいるようだ。来春にはずーっと広い所に出して、何か所にも早贄を作らせてやろう。

文 旭山動物園獣医師 小菅 正夫
え 阿部 寛

その当時の様子

当時の獣医師である小菅(現園長)に聞いたところ、
「モズのヒナは生まれてまもなく巣から落ちたのにも関わらず早贄をする術を知っている。親から教えられるわけでもなく、見て覚えたわけでもないのに、知っている。当時は、野生動物の保護を担当していて、野鳥たちと接しているとその行動にたくさん驚かされた。」と言っていました。
まさにそのとおりだと思いました。例えば、ヒトは親から躾けられながらマナーを覚えたり、学校でいろいろなことを学んだりします。知識や知恵などがなかったら、食べることもできないのではないでしょうか?モズの遺伝子に早贄をするという情報が組み込まれているということは、とても不思議な感じがしませんか?