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旭山動物園について

旭山動物園ヒストリー・読み物 こんにちは(2)

昭和54年の「こうほう旭川市民」より

旭山動物園からこんにちは

どうぶつえんからコンニチワ

昭和54年、こうほう旭川市民で、10回に渡り、飼育員が書いた旭山動物園の様子が連載されていました。今回の「読み物」はその中の一つを紹介します。

去年の6月20日朝早く、開港間もない成田空港に、メルボルン動物園から“フクロギツネ夫妻”が“ウォンバット夫妻と一緒に到着しました。
その日は梅雨明けのカンカン照りで、晩秋のオーストラリアから一夜明ければ真夏の陽ざしに4頭ともびっくり。特に体の小さいフクロギツネはもうグッタリしていました。
すぐに飛行機を乗り換え、千歳空港へ。今度は肌寒い空気に二度びっくり。その日の夜中、ようやく旭山動物園に到着しました。彼らにとっては、とても長くつらい旅だったことでしょう。でも箱から出してやると、すぐに自分の部屋をすみずみまで点検し、やっと安心した様子でした。

小さな小さな赤ちゃん

それから9ヶ月。母親の背中には、もう袋の中に入れないほどに成長した子が目をまんまるにしてしがみついています。出産に気付いたのは、1月でした。おなかの毛がピクピク動いたのです。そっと指で触れてみると、袋の中で何かが動いています。それはそれは小さなものでした。
でも、産まれたときはもっともっと小さいのです。体重は1グラム以下で、前足だけが発達し、あとはただの血の塊(かたまり)のような赤ちゃんが産まれてくるのです。もちろん目も見えないし、口も穴が開いているだけです。そんな赤ちゃんが、母親のつけてくれた道を袋の入口まで体をくねらせ、二本の腕だけでよじ登ってゆくのです。
袋の中に入り、乳頭へ吸いつくと一安心。あとは自動的に乳が流れ込むし、尿と便は母親が始末してくれます。袋は完全看護付き未熟児収容室です。
毎朝、寝ているころを見計らってそっと巣箱の中をのぞき、袋の中がモコモコ動くのを見ていると、時折ニューッと手が出てきます。成長の早いこと、最初糸の様に細く真っすぐだった指も、2月には節のある指になり、ピンクだった皮膚も3月になると黒っぽくかわって表面が乾燥し、毛も生えそろい、21日ようやく袋から出て、母親にしがみついているのを見つけました。身長13センチメートルぐらいになりました。
さて、袋に入ったときと袋から出たときと、どちらが本当の誕生日なのでしょう?

文 旭山動物園獣医師 小菅 正夫
え 阿部 寛

その時の様子

その時の様子を当時の獣医師である小菅(現園長)に聞きました。
「そのころ、有袋類のことを学びにオーストラリアとニューギニアへ行った時のことです。訪問したメルボルン動物園で、園長さんが『君が来てくれた記念に、ウォンバットとフクロギツネのペアを進呈する』と言われて本当にうれしく、帰国後すぐにオーストラリア大使館と連絡をとりました。すると、大使館から、専門官が飼育環境や教育活動について調査しにやってくるといいました。
そして、その1年後に、ようやくウォンバットとフクロギツネが入園しました。自国の動物を大切にする姿勢にいたく感心したことを覚えています。」