旭川地域のアイヌの伝統的生活空間の再生に関する基本構想 はじめに
はじめに
旭川の歴史は、数多くのアイヌ語に由来する地名やアイヌ民族の文化遺産が示しているとおり、開拓以前にこの地域で暮らしてきたアイヌの人々の伝統や生活の上に築かれたものであります。大正期に、本市の近文地区に居住していた知里幸恵が、その「アイヌ神謡集」の序文の冒頭に、「その昔の広い北海道は私たち先祖の自由の天地でありました」と書き、アイヌこそが北海道の先住民族であることを高らかに宣言したように、アイヌの人々は大自然の中で自由に暮らしていた北海道の先住民族でありました。
しかしながら、明治以降の旭川地域のアイヌの人々の辿った道は、北海道の他の地域と同様にアイヌの生活基盤や伝統文化が失われていく苦難に満ちたものでしたが、アイヌの人々は高い自立、自尊の志を持って、独自の文化を幾代にもわたり受け継いできました。
このような歴史を踏まえ、旭川市では、1999年(平成11年)7月に北海道が策定した「伝統的生活空間の再生に関する基本構想」を受け、2002年(平成14年)1月にアイヌ文化を将来に向けて発展させていくため、アイヌ文化の伝承館と総合的なアイヌ文化の研究推進センターを骨子とする「旭川版イオル構想」をまとめたところであります。
同年3月、北海道が設置するアイヌ文化振興等推進会議において、本市は道内7地域のイオル適地の一つとして選定されたところでありますが、その後、2005年(平成17年)7月に国の基本構想がまとめられ、イオルの機能として自然環境を基盤とした自然素材の活用を重視し、必要とされる施設等については既存施設を積極的に活用する考え方が示されたところであります。
こうしたことから、本市が地域イオルの指定を国から受けるには、「旭川版イオル構想」を、国の基本構想を踏まえた内容とする必要があることから、2007年(平成19年)11月にアイヌ団体の代表者、アイヌ文化伝承者、有識者からなる「旭川版イオル構想見直し等検討懇話会」を設置して検討を進めてきたところであります。
アイヌの人々を取り巻く環境は、2007年(平成19年)9月国連において「先住民族の権利に関する国際連合宣言」が採択され、2008年(平成20年)6月には衆参両院本会議において「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」が可決されたことで、大きく変化しました。
これを受け、政府は初めてアイヌ民族を日本の「先住民族」と認め、政府のアイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会を設置するなど、アイヌ民族の総合的な施策の確立に向けた取り組みが進められております。
このようなアイヌの人々にとって追い風となる環境の中、委員の皆様のご協力により「旭川版イオル構想」の見直しを終え、新たに「旭川地域のアイヌの伝統的生活空間の再生に関する基本構想」を策定したところであります。
この構想は、アイヌの人々の総意による実現への強い期待が込められており、本市の恵まれた自然環境や35万人を有する都市機能を生かし、アイヌの人々によるアイヌ文化の保存・伝承を進めるとともに、旭川に来た人たちや市民がアイヌ文化に触れ、知り、体験し、楽しみ、学び、親しむことのできる環境を整備し、アイヌ文化の理解の促進と伝承活動の総合的な推進を図り、アイヌ文化を未来に向けて発展・継承していくものであります。
旭川地域のアイヌの伝統的生活空間の再生に関する基本構想(目次)
はじめに