旭川地域のアイヌの伝統的生活空間の再生に関する基本構想 4旭川地域イオルの展開

情報発信元 文化振興課

最終更新日 2016年2月24日

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4 旭川地域イオルの展開

自然を活用するイオル(1つめのイオル)

「イオルの森」による採集、狩猟に関する文化の再現

自然資源が豊富でアイヌ文化に深く関わりのある嵐山公園、神居古潭を含めた神居地区及び江丹別地区の国有林、市有林を「イオルの森」と呼び、アイヌの人々が伝統的に食料や、日用品・住居などの素材として利用してきた樹木やツル、草本類、山菜等の採取の場を設定し、採取した素材の加工・保存の場を確保して採集文化の再現に取り組みます。

また、国有林野において、シカやクマ等の狩猟の場を設定し、狩猟活動のための組織化や関係者との調整など必要な仕組づくりを進めるとともに捕獲後の加工・保存の場を確保し、狩猟に関する文化の再現に取り組みます。またこれらの狩猟活動をアイヌ自らがガイド・運営するアイヌ・エコツーリズムとして推進します。

「イオルの川」による漁労に関する文化の再現

本市には石狩川、忠別川、美瑛川、牛朱別川を始め多くの河川があり、かつてはサケやサクラマスなどが豊富に捕獲され、主食としてまた重要な交易品として活用されていました。

こうした河川を「イオルの川」と呼び、伝統的漁法による捕獲場所を設定し、加工や保存の場を確保して漁労に関する文化の再現に取り組みます。

しかしながら、現状の河川ではサケの遡上が極めて少なく、捕獲は不可能な状況にあります。そこでかつて交流していた天塩川流域も「イオルの川」として、サケやサクラマスの捕獲を視野に入れた河川の活用を進め、これらをアイヌ自らがガイド・運営するアイヌ・エコツーリズムとして推進します。

嵐山公園及び神居古潭地区におけるエコツーリズムの展開

  1. 嵐山公園
    嵐山公園は、豊かな自然環境に恵まれ、市民にとって自然の中の憩いの場として、また郷土の自然、歴史の学習の場として活用されています。
    上川アイヌの人たちは、古くからチノミシ(我ら・祀る・山)と呼び、「送り場」、「チャシコ(砦跡)」などのアイヌ文化の遺跡や伝説の地を残しております。
    また、旭川市博物館の分館が設置されており、チセ(家)やプー(貯蔵庫)、アシンル(男性用トイレ)、メノコル(女性用トイレ)、ヌササン(祭壇)があり、公園を管理する嵐山公園センターにはアイヌ文化資料展示室が併設され、道具類などが展示されております。
  2. 神居古潭
    神居古潭地区は、上川アイヌの人々が石狩方面と行き来する重要な交通の要衝の地であり、激しい石狩川の流れや険しい断崖、奇岩怪石の美しい景観は、アイヌの人々によって多くの伝説が生み出され、それらに深く関わる地名や岩が残されております。神居古潭の渓谷にあるアイヌ語地名は約50を数え、この地がアイヌの人々の生活と深く関わっていたことを示しています。
  3. アイヌ・エコツーリズムとして展開

嵐山公園及び神居古潭地区の「イオルの森」と石狩川などの「イオルの川」の豊かな自然環境を生かして、この地に残されているアイヌ文化の遺跡や伝説の地、アイヌ語地名が残る地を訪ね、アイヌの人々のかつての暮し方やその世界観・自然観に触れ、体験し、アイヌの歴史や文化、動植物に関する知識、自然観察の知恵などを学ぶ活動をアイヌ・エコツーリズムとして展開します。

また、嵐山でのスキー場跡地の自然復元の方針に沿い、アイヌ文化の保存・伝承活動に必要となる自然資源の再生なども図っていきます。

まちの中で活動するイオル(2つめのイオル)

アイヌ文化の担い手と伝承活動

アイヌ文化の伝承活動は、次の二つのアイヌ団体が中心となって行なわれています。

  1. 北海道アイヌ協会旭川支部
    社団法人北海道アイヌ協会旭川支部は、アイヌ語教室、アウシ(オヒョウニレの樹皮で織った着物)織り・木彫り・編み物講座の開催、アイヌ料理講座、ユオプニカ(シカの魂を神の国に送る儀式)、コタンコカムノミ(村を治める神への祈り)の儀式などの伝承活動をカムイの杜公園内のチセ(家)、旭川市民生活館等で行っております。
  2. 旭川アイヌ協議会
    旭川アイヌ協議会は、ムックづくり教室、チノミシカムノミ(聖なる山への祈り)の儀式、アイヌ料理、トンコリのコンサート、アイヌ舞踊、歌、工芸品や民族資料を市民に紹介する工芸展の開催など各種伝承活動を嵐山公園内の伝承のコタン、川村カ子トアイヌ記念館、旭川市民生活館等で行っています。

アイヌ語の取り組み

アイヌ語は、旭川地域においても代々伝えられてきたユカ(ユーカラ、英雄叙事詩)やオイナ(神謡)などで知られる口承文芸、歌や踊り、カムノミ(神への祈り)の儀礼等に欠くことのできないアイヌ文化の基盤をなすものであります。

アイヌ語を駆使していた古老のほとんどが他界してしまった今日、伝承者の育成は極めて重要な課題となっており、アイヌ語を基軸においてアイヌ文化の伝承活動を進める必要があります。

現在、アイヌ語の学習や市民への普及については、アイヌ団体が中心となり2つのアイヌ語教室、アイヌ語上級教室、親子アイヌ語教室が開かれております。

また、北海道教育大学旭川校においてはアイヌ団体の協力のもとにアイヌ語教室の資料作成やアイヌ語ラジオ講座のテキストの作成、小学校の授業で利用できるアイヌ語の学習用冊子の作成、学生へのアイヌ語の普及活動などが行われております。

イオルの再生により、旭川の方言を生かしながら、他の地域のアイヌの人々や研究者、教育機関、関係機関などと連携し、アイヌ語の指導者の育成、アイヌ語の学習や市民への普及の拡大に向けた取り組みを進めます。

地域の特性を生かした伝統工芸品づくり

自然素材の採取から生まれたアイヌの人々のモノづくりは、自然素材を巧みに加工し、美しい独自の紋様を施し、芸術的価値が高く、本市では木彫り製品に代表される優れた工芸品が作られてきました。

しかしながら、自然素材の採取や捕獲が規制されている現状では、必要な素材の確保が近郊では難しく、木の皮や植物の繊維、シカ・サケの皮などから作られる美しいアイヌ紋様を施した織物や編み物、刺しゅう、革製品、儀式用具などの製作が思うようにできない状況にありました。

イオルの再生により、こうした素材の確保ができる環境を整備することで、失われた技術の復元再生を図り、地域に根ざした伝統工芸品づくりの復活と新たなアイヌ文化の創造に取り組むものであります。

担い手を育成する取り組み

伝承にあたっては、アイヌ文化の担い手の確保が緊急かつ重要課題となっております。後継者が少ない大きな要因は、伝承活動では十分な収入が得られず、専従を希望しても生活が保障されないことであります。

担い手として、若者が安心して伝承活動に専従するためには、将来にわたって収入が確保され、職業として自立できる仕組みづくりが必要です。

具体的には、旭川地域イオルが実施するエコツアーや自然観察イベントのネイチャーガイドとして、採集・狩猟・漁労に関する文化の伝承者として、様々な伝承活動の体験・学習教室等の講師として雇用されることが望ましいと考えます。

また、アイヌ団体の各種伝承活動を継続する上で、伝承者の確保、活動資金の不足、活動内容のレベルアップ、仕事をもって活動する両立の難しさなどの課題も挙げられており、イオルの再生に当たってはこうした課題解決に向けた取り組みを念頭において進める必要があります。

インフォメーションセンター機能を持つ施設の整備

観光客をはじめ多くの旭川を訪れる人々や市民に、旭川のアイヌ文化や地域イオルの展開する各種事業を効率的かつ効果的にPRし、案内・受付する必要があります。

このため、旭川のアイヌ文化を伝え、学ぶことのできる施設の案内、旭川地域イオルとして展開するエコツアーや各種アイヌ文化の体験・学習活動の案内・受付、旭川のアイヌの人々の歴史や文化の紹介、アイヌ工芸品の展示・販売などアイヌ文化に関する情報の総合的な窓口となるインフォメーションセンター機能を持つ施設の整備が必要であります。

旭川地域イオルの伝承活動及び管理運営に必要な施設

市内において、現在伝承活動に利用されている公共施設や民間施設など既存の施設の活用を基本において、イオルの再生に必要な施設の利用と施設及び設備の整備が必要であります。

旭川地域イオルの管理運営の組織

旭川地域イオルの管理運営の組織は、国で示された基本構想及び実施要領、通達等に基づき、旭川地域イオルの事業の実施や運営管理に関する事項を決定し、イオルの管理運営に必要な実務を担う組織であります。

組織化にあたっては、アイヌの人々の自主性を十分に尊重し、その意向が反映されるようにアイヌ団体、アイヌ文化伝承者などアイヌの人々が中核となって、学識経験者、空間の活用に関連する機関・団体、行政などが構成員となり、連携・協力してイオルの再生に取り組める組織づくりを進めます。

そのほかの取り組み

イオル再生に伴う規制緩和措置

採集、狩猟、漁労の各文化の再現には、国有林野内での樹木類や山菜などの自然素材の利用、シカやクマなどの捕獲、河川におけるサケの捕獲などをスムーズに進めるための関連法令、規則等を所管する国及び北海道の理解と協力が不可欠でありますし、関連法令、規則等の規制緩和措置が必要であります。


旭川地域のアイヌの伝統的生活空間の再生に関する基本構想(目次)

はじめに

  1. 旭川地域のアイヌの人々の生活空間とアイヌ文化
  2. 旭川地域イオルの骨格
  3. 旭川地域イオルの目指す姿とイオルの機能
  4. 旭川地域イオルの展開
  5. 資料編

お問い合わせ先

旭川市教育委員会 社会教育部文化振興課

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