彫刻美術館だより vol.7 (2026年3月発行)

情報発信元 文化振興課

最終更新日 2026年3月27日

ページID 083753

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タイトル

彫刻美術館だより Vol.7

館長よりごあいさつ

ぬいぐるみが教えてくれたこと

先日、当館でも巷で話題の「ぬい活」にあやかり、少し変わったイベントを開催しました。「ぬいぐるみのお泊まり会」です。皆さんの大切なぬいぐるみをお預かりし、彫刻たちと一緒に過ごしてもらうという企画です。
当初は申し込みがあるか不安でしたが、始まってみると、わずか1、2分で定員に達しました。多くの方をお断りすることになってしまい、心よりお詫び申し上げます。次回は夏の開催に向けて、現在調整を進めております。
これほどまでに「形あるもの」へ愛着を注ぐ心は、人類の根源的な本能なのかもしれません。遡れば、約4万年前、マンモスの牙から彫られた「ライオン人間像」が作られました。過酷な自然の中で、人はあえて手間をかけ、祈りや愛情を形あるものへと託してきたのです。
1880年(明治13年)にドイツのシュタイフが作った小さなフェルト製のゾウから始まるぬいぐるみの歴史も、現代の「ぬい活」に見られる
癒やしや自己表現も、その根底にある「形に心を託す」という行為は、数万年前から同じ地平でつながっているように思えます。
彫刻もまた、突き詰めれば土や金属等の塊です。しかし、そこに作家が「見る」ことを重ね、固有の形を与えたとき、それは単なる物質を超え、私たちの心と響き合う存在になります。
子どもたちがぬいぐるみに向ける無垢な愛情と、私たちが名作と呼ばれる彫刻の気配を感じ取ろうとする心。その本質は、きっと同じものなのでしょう。
彫刻を「難しい芸術」としてではなく、かつて私たちが大切にしていた「小さな友だち」を見つめるような、そんな親密なまなざしで眺めてみてはいかがでしょうか。皆さまのご来館を、心よりお待ちしております。

企画展

ステーションギャラリー

北海道教育大学旭川校彫刻ゼミ展

中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館の分館施設であるステーションギャラリーは、旭川や北海道ゆかりの彫刻家の作品を展示するとともに、地域の芸術家の作品発表の場とすることを活用方針の一つとしています。

本展では、旭川で彫刻を学ぶ若者の取り組みの一つとして、北海道教育大学旭川校彫刻ゼミの学生が制作した作品を紹介します。

  • 会期:令和8年2月28日(土曜日)~令和8年5月10日(日曜日)
  • 休館日:毎週月曜日(月曜が祝日の場合は翌日)
  • 時間:午前10時30分~午後6時30分(入館は午後6時15分まで) ※最終日は午後3時まで
  • 会場:中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館ステーションギャラリー(旭川市宮下通8丁目3番1号 JR旭川駅東口)
  • 観覧料:無料
  • 主催:北海道教育大学旭川校彫刻ゼミ、中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館

彫刻ゼミ展

お泊まり会の様子

ぬいぐるみお泊まり会

旭川市彫刻美術館では初めてぬいぐるみお泊まり会を開催しました。

ぬい_階段ぬい_原形質

ぬい_メダリオンぬい_ラウンジぬい_太陽のふねぬい_宇宙

ある日、ひとつの彫刻

朝倉響子《ニケ》(NIKE)
1981年 第13回中原悌二郎賞優秀賞

NIKE

旭川市彫刻美術館の展示室で、ひとつの彫刻と正面から向き合う。そこには、片膝を抱いて座り、どこか不安げな面影をたたえて佇む一人の少女がいる。朝倉響子の作品《ニケ》である。
しかし、一歩横へ回り込んでその横顔を眺めると、先ほどまで感じていた不安の気配は消え、代わって自信に満ちた強い意志が立ち上がってくる。
静かな展示室で彼女の背後へ回ると、その背中は表情以上に雄弁に感情を語りかけてくる。それは、これから晴れ舞台へ駆け出そうとする瞬間の、高揚と緊張が入り混じった少女の呼吸が聞こえてくるかのようだ。
「ニケ」といえば、ギリシャ神話に登場する勝利の女神であり、ルーブル美術館が所蔵する《サモトラケのニケ》がよく知られている。だが、朝倉が描いたこの「NIKE」には、あの力強い翼はない。ただ、何かに向かってまっすぐな眼差しを向けている。その視線の先にあるのは、勝利という結果ではなく、自分自身を生きようとする純粋な決意なのかもしれない。
作者の朝倉響子は1925年、「東洋のロダン」と称された彫刻家・朝倉文夫の次女として生まれた。日展で特選を重ね、審査員まで務めたが、やがて「自分自身を生きる」決意を固め、1956年にその地位を捨てて脱退する。その後は個展を中心に、独自の表現を追求し続けた。都会的な感覚にあふれ、洗練された人物像は、キャプションを見なくとも「朝倉響子の作品だ」とわかるほどの強い個性を放っている。
そんな彼女が第13回中原悌二郎賞優秀賞を受けた際、次のような言葉を寄せている。「夏から秋、季節のはざまに、過ぎ去ったもの、今あるもの、そして新しくひらかれるもの、が顕わになり、全ての在り様を予感する深い瞬間があります。たとえば『秋の震える』瞬間です。」
この彫刻が放つ、静かでありながら震えるような生命感。それは、自分自身を見つめ、新しい季節へと踏み出そうとする「現代の女神」の姿なのだろう。私たちはその背中を見送るとき、ふと自分の中にも、同じ「秋の震え」があることに気づかされるのである。

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電話番号: 0166-46-6277
ファクス番号: 0166-46-6288
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