彫刻美術館だより vol.6 (2026年2月発行)

情報発信元 文化振興課

最終更新日 2026年2月18日

ページID 083440

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タイトル

彫刻美術館だより Vol.6

館長よりごあいさつ

セザンヌの「リンゴ」、
それから中原悌二郎の「首像」

私が当館に着任してから、まもなく一年になります。当館には900円の年間パスポートがありますが、まだ十分に活用されているとは言えません。
そもそも、年間パスポートの意味とは何でしょうか。
私は彫刻美術の専門教育を受けてきたわけではなく、これまで趣味として親しんできたのは絵画でした。気になる画家の一人が、ポール・セザンヌです。セザンヌの静物画には、しばしばリンゴが描かれていますが、そこには「何を描くか」以上に、「どう見るか」を描いているような強さがあります。リンゴを通して、見るという行為そのものが問われている。そんな印象を受けます。
旭川ゆかりの彫刻家・中原悌二郎の作品と日々向き合うなかで、私はよく似た感覚を覚えました。その表情は静かで、強く抑制されています。けれど、その沈黙のなかには、対象を何度も見つめ直し、時間をかけて近づいていった痕跡が、確かに刻まれているように感じられるのです。
二人に共通しているのは、「うまく作る」ことよりも、「どう見ているか」を作品の中心に据えている点ではないでしょうか。どちらの作品も、決して派手ではありません。けれど、何度も見返すうちに、「またここに戻ってきてしまう」と思わせる場所があります。それはきっと、見ることを急がない姿勢に、こちらの呼吸が自然と合ってくるからでしょう。
同じ作品を、何度も見ることでしか、見えてこないものがある。
年間パスポートは、その「何度も見る」ための入り口なのかもしれません。
皆さまのご来館を心よりお待ち申し上げます。

企画展

彫刻美術館本館

宇宙を感じる彫刻展

本展では、所蔵作品の中から「宇宙」をテーマに作品をご紹介いたします。「彫刻は難しい」「彫刻はわからない」といった声を耳にすることもありますが、時には作品の意図や解釈から離れ、造形そのものや彫刻作品が置かれた空間を自由に楽しんでいただけるよう、形やタイトルなどに“宇宙っぽさ”を感じられるような作品を12点厳選いたしました。作品の中に星のように輝く素材や着色が見られるもの、彗星の尾のような曲線が見られる作品、季節を感じられる作品、何かを語りかける作品、それぞれの彫刻の中にどんな宇宙が感じられるか、自由に考えながらご覧ください。
さらに、旭川天文同好会のご協力のもと、天体写真も併せて展示いたします。旭川天文同好会は旭川市を中心に、天文の知識を深め、観望会などを行う、星空が好きな会員が集まって活動している団体です。会員によって撮影された、肉眼でも観察することができる天の川や満天の星空、彗星などの身近な天体をはじめ、望遠鏡を通して捉えた月、星雲、星団などの色鮮やかな写真、また、太陽の活動によって生み出されるオーロラや日食といった神秘的な天文現象の写真をご紹介します。
彫刻家たちの手によって作り出された彫刻作品の「美」と、長い年月をかけて宇宙が紡いできた自然の「美」。異なる2つの「美」を見比べながら、じっくりとお楽しみください。

  • 会期:令和8年1月21日(水曜日)~令和8年6月7日(日曜日)
  • 休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
  • 時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
  • 会場:中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館1階展示室(旭川市春光5条7丁目)
  • 観覧料:一般450円/高校生300円/中学生以下無料 ※常設展観覧料を含む。各種減免規定あり。
  • 主催:中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館
  • 協力:旭川天文同好会、旭川市科学館

宇宙を感じる彫刻展

お知らせ

ぬいぐるみお泊まり会(冬のお泊まり会)

*受付は終了しました。好評につき、第二弾も検討中です。

旭川市彫刻美術館では初のぬいぐるみお泊まり会を開催します。
年齢制限なくお申込みいただけますので、奮ってご参加ください!

  • お預かり期間:2月21日より1週間
  • 定員:8体程度(先着)
  • 参加費:500円(フォトブック代)

ぬいぐるみお泊まり会

フルートアンサンブル フルール ミュージアムコンサート

*受付は終了しました。

彫刻美術館にて、フルートアンサンブル フルールさんによるコンサートを開催します。
旧旭川偕行社の優美な雰囲気とフルートの音色との調和をお楽しみください♪

  • 日時:3月20日(金曜日・祝日)14時開演
  • 定員:40名(先着)
  • 入場料:無料

ミュージアムコンサート

ある日、ひとつの彫刻

池田宗弘《一番近くの巨人に突っこんだ》(Charge on the Nearest Giant)
第17回中原悌二郎賞優秀賞作品

展示室でこの作品に向き合うと、まず題名が胸に残る。《一番近くの巨人に突っこんだ》遠くの敵ではない。身近で、避けようと思えば避けられる存在に、あえて向かっていく。その「巨人」とは風車のこと。ドン・キホーテの物語の中でも、ひときわ印象に残る一幕である。
池田宗弘は、ドン・キホーテに仮託した人間像を作り続けてきた作家です。遍歴の騎士とは、宮廷に仕え安定した地位を得る騎士ではなく、自らの信じる正義や理想だけを携え、あてもなく旅を続け、困難や敗北を引き受けながら、それでも歩みを止めない騎士のことを言います。
作者がこの言葉に強く共鳴していたことは、第20回中原悌二郎賞受賞の言葉からも伝わってきます。スペインでロマネスク彫刻を学び、サンティアゴ・デ・コンポステーラの「栄光の門」に触れた体験。無数の巡礼者の手によって摩耗した石柱に、彼はモノづくりの原点を見た。その感動のさなかに届いた受賞の知らせを、池田は「もっと良い仕事をするようにとの告知」と受け止めています。
《一番近くの巨人に突っこんだ》は、鍛造という池田の特異な技法によって生まれています。正面から見ると構造は開かれ、量感は抑えられています。しかし、一歩横に回ると、線と線の重なりが変化し、踏み出す身体の方向性が立ち上がる。さらに背後に回り込むと、前進の気配がいっそう強く感じられる。
池田宗弘はまた、長年にわたり小野派一刀流を修めてきた武道家でもあり、「この一太刀で何を示せるか」と自分を突き詰めたと語っています。池田が稽古の末行き着いた『万有が一に初まり一に帰す』という一刀流の哲理。「一刀即万刀、万刀即一刀」―― 一太刀にすべてが宿り、すべての技は一太刀へと還っていく。

この考え方は、彫刻にもそのまま息づいていて、多くを語らず、余計なものを削ぎ落とし、それでも崩れない一本の軸を立てること。《一番近くの巨人に突っこんだ》は、その「一太刀」を、立体として、空間の中に差し出しているように見える。
遠くの理想ではなく、いま目の前にある巨人へ。遍歴の騎士のように、不器用でも一歩を踏み出す。その覚悟を、この彫刻は静かに、しかし確かな強さで手渡している。

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お問い合わせ先

旭川市教育委員会 社会教育部文化振興課中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館

〒070-0875 北海道旭川市春光5条7丁目
電話番号: 0166-46-6277
ファクス番号: 0166-46-6288
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受付時間:
午前8時45分から午後5時15分まで(月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日)及び12月30日から1月4日までを除く)