ASAHIKAWA 100 PRIDE~逸品編Vol.4
日本製紙株式会社 旭川工場 印刷用紙の「原紙」
スマートフォンがどれだけ身近になっても、社会のデジタル化が進んでも、私たちの生活は紙なしでは成り立ちません。
新聞やチラシ、ティッシュペーパー、部屋を彩る壁紙、コンビニでドリップされるコーヒーの紙コップなど、1日のうち、どこかで触れる場面があるのではないでしょうか。
自治体の広報誌も、手に取れることで、どの世代の方でも行政や暮らしの情報を知ることができます。旭川市では全ての市民に届くよう「あさひばし」を全戸配布しています。紙で毎月発行するからこそ、地域の情報インフラとしての機能を果たせていると言えるでしょう。
その「あさひばし」は市内で印刷されていますが、その印刷用紙の素材も市内の工場で作られています。
北海道で最も長い石狩川と、それに注ぐ牛朱別(うしゅべつ)川に囲まれたパルプ町にある、日本製紙の旭川工場です。
北海道のほぼ中央にある旭川は、チップや丸太といったさまざまな原料を道内各地から調達しやすい立地でした。生産に欠かせない水は、石狩川や牛朱別川から豊富に確保できることも大きなメリットでした。
昭和13年、国の政策により「國策パルプ工業」の工場として設立されました。物資が不足する時代には衣類にも使われていたというパルプ(植物繊維)の生産から歩みを始め、後に紙も手掛けるようになりました。
この旭川工場では、私たちが普段目にする紙製品ではなく、その前段階の「原紙」などを生産しています。作られる原紙は印刷用紙の他、紙コップや教科書用紙など数百種類あり、年間の生産量は約20万トンにも及びます。
旭川工場のみで生産し全国の取引先に納めているものには、茶封筒の原紙や、壁紙の裏側に貼られた「裏打ち紙」があります。紙質や用途により、原料や薬品をどう配合するかの「レシピ」は千差万別です。日本製紙は素材メーカーとして、完成品メーカーなどの要望に細かく応じています。印刷用紙ではめくった時の感触やインクの乗りの良さが求められます。紙コップなら、円形の飲み口が変形しにくいよう、また唇に違和感がないよう加工する必要があります。
旭山動物園が主催した墨画イベントでは、旭川工場は特注の書道用紙を提供しましたが、厚みや吸水性、強度などで試行錯誤を重ねたといいます。
旭川市民にとっては、日夜モクモクと立ち上がる旭川工場の光景はおなじみです。「パルプ町」というユニークな町名は、その全域が旭川工場となっています。周辺では、チップなどを積載した大型トラックが行き交っています。敷地内は一般の入場はできませんが、多くの木々が植えられ、敷地外の国道を走っていると、まぶしい緑が飛び込んできます。
工場を稼働させる電力と蒸気を生み出すボイラーは、薬品回収ボイラーとバイオマスボイラーの2缶体制で、薬品回収ボイラーは、紙の原料となるパルプ製造工程で出る有機物を濃縮して燃焼し、バイオマスボイラーは、道内で発生する木くずやバーク(樹皮を砕いた木片)を主燃料に、廃プラや廃タイヤなどを混ぜて燃焼しています。これらにより、自家発電比率は90%超となっています。またバイオマスボイラーの燃焼灰はセメントで成型し、再生骨材としてリサイクル。道路の凍結を抑える素材として、また林道の路盤として有効利用されており、道民の暮らしを意外なところから支えています。工場では、環境に配慮した取組みも進めています。原料に貴重な森林資源を生かせるよう、植林木や製材工場から出た端材も活用しています。
紙には新たな期待も寄せられています。工場の担当者は「紙は再生可能な資源です。環境意識の高まりで脱プラも進む中、道内の紙の地産地消に貢献していきたいです」と意気込みます。
身の回りにある多種多様な紙に、私たちは普段、何気なく触れています。その指先はもしかすると、豊かな森が広がる北海道、はたまた旭川に通じているかもしれません。