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「どうぶつえん日記(2021年)」の記事一覧

ゲンちゃん日記・令和3年12月「冬期開園を迎えた旭山動物園」

エゾユキウサギ

(エゾユキウサギの親子)

 先月、冬期開園を無事に迎えることができました。10月に続いて、延期に次ぐ延期となっていた修学旅行生などの来園が多くなっています。この時期は北海道と他の地域との寒暖差が大きいので、道外から来た学生の中には、寒そう!と、こちらが震え上がるような格好をしている子もいます。でも一般客の団体はとても少なく、園内は落ち着いています。もっとも、11月・12月は地元の人はあまり動かない時期ですよね。雪も少なく「寒いだけ」というこの時期は、雨が降るくらいなら雪の方がいいなと思うこともあります。
 そういえば、冬期開園から週末も含め、もぐもぐタイムを再開しています。少しずつ旭山動物園らしさを出していきたいと考えています。年が明けたら雪あかりの動物園も実施したいです。まだまだ大きな声で旭山動物園に来てね!とは言えない状況ですが、できることは淡々と、しっかりやっていきたいと思います。
 今年を振り返ると、エゾモモンガ舎のオープンなど、北海道の動物の飼育展示エリアが充実しました。新しい施設で、エゾユキウサギの繁殖もありました。巣穴も掘らず、子は生まれたときから茶色い毛に覆われ目も開き、人間の子供の拳くらいの大きさで、あれは縫いぐるみだ、と言ったら誰もが信じるくらいの愛らしさです。ウサギを飼いたい!という声も聞こえてくるのですが、「みんなが飼っているのはカイウサギ=アナウサギ=rabbitで、エゾユキウサギ=ノウサギ=hareなんだよ」と即席でガイドをするなど、来園者と一緒にエゾユキウサギの成長を楽しみながら見守りました。
 冬に向かって繁殖をする可能性がある動物、次の春に向けて繁殖の準備をする動物、冬はしんしんと静かですが、大切な季節でもあります。しっかりと準備を怠らず新しい年を迎えたいですね。

                                    令和3年12月16日

                                    旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年11月「旭山動物園の冬支度」

越冬舎

(冬の間、越冬舎でのんびり過ごします)

 緊急事態宣言が解除され、10月にようやく開園できました。道内の中学校を中心に、宿泊研修や修学旅行での来園ラッシュでした。生徒たちの歓声が聞こえ笑顔を見ると、開園できて良かったと、ほっとした気持ちになりました。
 今年は10月17日に旭川で初雪が降り、ととりの村のガン・ハクチョウ類とフラミンゴの越冬舎への収容日に重なりました。ととりの村とフラミンゴ舎は、雪に備えて天井の網を外します。高所作業車などを使う、かなり大掛かりな作業で、天井の網を外す前に鳥たちを収容します。昔はこの作業を10月末頃に行っていたのですが、数年前、網外しを行う前にべた雪がたくさん降り、網が破けてしまったことがありました。鳥たちの収容後だったのは不幸中の幸いでしたが…。それ以降、早めに網を外しています。今年は昨年よりも早い初雪で、記録的な暑さとなった夏を忘れてしまいそうです。冬の足音は着実に迫っています。
 10月は新たな動物の仲間入りもありました。オオタカ、ライオン、アフリカタテガミヤマアラシです。オオタカはバックヤードでの繁殖を目的に導入しました。地道な取組みですが、動物園として果たすべき大切な役割だと考えています。ライオンは、雄のオリトとペアを組むことになります。繁殖目的というよりも、ネコ科で唯一群れをつくって生活するのがライオンですから、本来持っている習性の発現、感情を豊かにすることが大きな目的です。アフリカタテガミヤマアラシは、来春から、かば館で飼育展示を予定しています。
 えぞひぐま館(仮称)の建設工事は、仕上げに向け、きめ細かな屋外作業が続いています。寒さも増し、かなり厳しい環境になってきました。工事関係の皆さんには頭が下がります。人と野生動物の関係を考えるという新たなコンセプトを具体化した施設です。頭の中で想像していたことが、現実の形になりつつあります。皆さん、期待していてください!

令和3年11月16日

旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年10月「身近な命を通して自然の尊さを伝えたい」

りす3
リス2

(保護された当時のエゾシマリス(左)。今では、すっかり成長しました)

 秋晴れが続いています。実りの秋ですが園内のドングリは数も少なく、小さな実が多いです。夏の日照りが影響しているようで、森の実りはどうなのかなと心配になります。
 昨年から予定外の休園期間が断続的にあり、ふと思い返すと、動物園では哺乳類の幼獣の保護の持ち込みが続きました。昨年は、解体した納屋から出てきた4頭のエゾモモンガの子、なぜか段ボール箱に入って道端に捨てられていたキタキツネの子を保護しました。今年は、伐採現場で見つかったエゾシマリスの子、交通事故で死んでしまった母親の傍らでうずくまっていたエゾタヌキの子、公園の地面でアリがたかった状態で見つかったエゾモモンガの子。今では、みんな元気に成長しています。人が親代わりなので野生に戻すことはできませんが「親別れ」をして、それぞれ他の個体との同居を始めています。将来の繁殖に備え、他の動物園と血縁関係のない個体の交換なども行っています。そういえば、保護ではありませんが、市内で有害駆除されたヒグマの年齢鑑定のための抜歯なども続きました。
 昔の旭山動物園は、飼育動物の半分以上が保護動物でした。保護される個体は、幼獣・幼鳥はもちろん、飼育下の個体ではあり得ない複雑骨折や重度の化膿性の炎症、カイセンなどの寄生虫症、農薬中毒…実に様々な状態で運び込まれてきたものです。飼育下では診ることのない多様な症例と向き合うことで、飼育・診療技術の厚みというか、幅が広がりました。
 改めて思うのは、身近にどんな生き物がいるのか知らなければ、いなくなっても気付くことすらできないということです。保護して救うことができた命は身近な自然を代表する動物大使なのだと考え、より多くの人に見てもらい、自然のたくましさ、尊さを感じてもらえるように飼育・展示していきたいと思います。

                                      令和3年10月17日

                                    旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年9月「どんなときも、動物たちの変わらない日常を伝えるために」

書道

(躍動感あふれるパフォーマンスの様子を動画で配信中!)

 暑い夏が終わり、秋の気配を感じます。
 先月、市内高等学校交流事業として「動物墨画パフォーマンス甲子園」を初めて開催し、6校7チームが参加しました。動物や動物が棲む環境への関心を高めてほしいと思い、旭山動物園での事前学習も行いました。「動物と書」をどのように融合させ、表現するのか?そして迎えた当日、高校生の迫力あるパフォーマンスに圧倒されてしまいました。コロナ禍のため多くの制約を設けての開催となり、本来の交流事業はできませんでしたが、パフォーマンス後の学生たちのやりきった笑顔がとても印象的でした。多くの方に協力・協賛していただき、実現できたことに心から感謝します。
 開園時間を延長して、夜の動物園も開催することができました。最終日、オオカミの遠吠えが終わった後、誰からともなく拍手が湧き起こりました。初めて目にする光景で、来園者は、かっこよかった!感動した!と目を輝かせていました。コロナ禍で閉塞感が強まる中、動物の凜とした姿が来園者の心に届いたのかな、と感じます。
 この手紙が届く頃、旭山動物園は臨時休園しているのではないかと思います。新型コロナウイルス感染症の対処には、これからも試行錯誤する日々が続くのだろうと考えています。開園していても休園していても、旭山動物園は動物
たちの変わらない日常を伝える努力を続けていきます。今は皆さんの心の支えの一助になることができれば、という思いを持ち、飼育動物たちと向き合う日々を送っています。

令和3年9月16日

旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年8月「ヒトの生活圏を避けないヒグマ」

ヒグマ

(旭山動物園では、安心してヒグマを観察できます)

 連日の暑さで、園内の芝生も枯れ始めた今日この頃です。この暑さはいつまで続くのでしょう?キリンなどに与えている青草も、2番刈りの牧草が全く育たず、夏なのに青草を与えることができません。とにかく雨が待ち遠しい日々が続いています。
 それにしても、この暑さと湿度と紫外線の中でも感染力が衰えないように思える、新型コロナウイルスには驚かされます。この先どうなるのか…。
 さらに、ヒグマの出没!旭川は川のまち。川の上流は森につながっています。近年、ヒグマがヒトやヒトの生活圏を避けない傾向が顕著になってきていますが、まちなかの河川敷にまで居着く個体が現れるとは驚きです。そして時間の経過とともに、ヒトが作った舗装路やまちの明かりにも少しづつ慣れてきます。もしも、民家の家庭菜園が荒らされたらと、びくびくしています。
 とにかく河川敷から出ると、そこは市街地です。人命への危険回避を最優先に様々な対策を講じていますが、ヒグマの行動を予想することは難しく、対応は困難を極めているようです。ヒグマを刺激する行動は危険を伴うため、追い払うこともできません。このまま山に帰ってくれたらと思われるかもしれませんが、ヒグマにとっては快適に過ごせた場所として記憶されてしまいます。
 来年春オープンを目指し工事が続いているえぞひぐま館(仮称)では、ヒグマとの共存を探ることもテーマの一つに据えています。
 話は変わりますが、ペンギンの繁殖、アビシニアコロブス・エゾユキウサギの出産など、動物たちの営みは順調です。せめて穏やかな気候になればと祈りつつ筆を置きます。

令和3年8月15日

旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年7月「静かな園内に響き渡るシロテテナガザルの歌声」

シロテテナガザル

(高い所から歌声を披露するシロテテナガザル)

 6月21日、緊急事態宣言の解除を受け、旭山動物園も再開園となりました。無条件に喜べる状況ではありませんが、やはり動物たちを直接見ていただけるのはうれしいことです。動物と来園者がそろい、初めて動物園なのだと改めて思います。開園記念日の7月1日も来園者と共に迎えることができそうです。
 緊急事態宣言が発令され、1か月以上の休園期間でしたが、全てが止まっているわけではありません。シンリンオオカミやアフリカタテガミヤマアラシの死、イワトビペンギン・キングペンギンのふ化など、命の営みは続いています。昨年末に生まれたアミメキリンの子の愛称が「あさひ」に決まり、先日、命名式を行いました。あさひの背の高さ(頭頂高)は2m60センチメートルを超え、ぐんぐん成長しています。また、旭山動物園では約9年ぶりの大型施設となる「えぞひぐま館(仮称)」の建設も順調に進んでいます。
 来園者がいないと園内が静かなこともあって、休園中は毎日シロテテナガザルの歌うような鳴き声が響き渡っていました。SNSで「エゾハルゼミの鳴き声が…」などと音声入りの動画をアップすると、かなりの確率でシロテテナガザルの歌声も聞けるほどでした。鳴き声が響いて気持ちいいのか、普段より歌う頻度が高かったように思います。来園者が多い日は、園内放送の音が響かないと感じるときがあり、人の体には吸音材の効果があるのかなと思っていましたが、どうなのでしょう?
 この手紙を書いているのは再開園の前日夕方です。園内の売店の開園準備、看板類の点検、人止め柵の確認などを済ませ、明日に備えています。
 もしも次に休園することになったら、ぜひ、動物園をワクチン接種会場にお願いしたいと考えています。

令和3年7月18日

旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年6月「しっかりと動物に向き合い、可能性を追い続ける年に」

キリン

(アミメキリンの子は元気に成長しています)

 5月、北海道に緊急事態宣言が発令され、旭山動物園も休園を余儀なくされました。この手紙が届く頃、旭山動物園は開園しているのでしょうか?多分無理だろうなという思いがよぎり、出るのはため息ばかりです。休園するのは簡単ですが、再開するのは大変です。私たちの雇用主は市民であり来園者ですから、行く場所を狭めるだけではなく、安全対策が行き届いた「行ける場所」を確保することも、私たちの責任ではないかと考えていたのですが…。今の状況が続くのであれば、次は夏休み以降に動けなくなると思われます。
 さて、現在の旭山動物園の様子は、来園者がいないこと以外何も変わらない毎日が続いています。2回目の開園準備期間と割り切って、4月の閉園期間にできなかったペンキ塗り作業や、自分たちでできる修繕作業などを行っています。穏やかな動物園からまちの方を見ると、田んぼに水が張られて田植えが始まっています。旭山ではエゾハルゼミが鳴き始めました。この時期は夕方になると、田んぼの水面が夕日に照らされてオレンジ色に染まり、アマガエルの鳴き声も響いてきます。不謹慎かもしれませんが、今は動物園も動物たちも我々スタッフのために存在しているように感じます。だからこそ、この時間を大切にしっかりと動物に向き合い、気力を充電して、再開した時に今まで以上に多くの「こと」を来園者に還元できるよう、過ごさなければと思っています。
 今年こそは、と温めていた企画も、実現に向けて準備を進めています。「こんな状況だから」と言い訳せず、可能性を追い続ける年にしたいですね。
 アミメキリンの子は、すくすくと成長しています。今度お目に掛かるときには「えっ、もうこんなに大きくなったの!」と驚かれるかもしれません。皆さんとの再会を切に願っています。

(注)臨時休園期間を5月17日(月曜日)から6月20日(日曜日)までに延長いたしました。

令和3年6月15日 

旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年5月「ワオキツネザルの尾の不思議」

ワオキツネザル

(母親の体に、ぴったりとくっつく尾)

 雪解けが進む4月上旬、5月に届くこの手紙を書いています。桜の開花予想は4月下旬。思い出いっぱいのゴールデンウイークを過ごせたでしょうか?希望的観測ができる状況ではなく、何を書けばいいのか正直戸惑うばかりです。昨年は、新型コロナウイルスの影響でゴールデンウイークの夏期開園を迎えることができず、5月いっぱいの閉園でした…。
 さて、動物たちのことなら書けます。昨年に続き、3月にワオキツネザルが出産しました。昨年は双子でしたが今年は1頭だったので子育てもお手の物という様子です。昨年秋から放飼場の檻を大規模修繕していたため、サルたちは寝室暮らしが長かったのですが、修繕が終わり屋外に出られるようになると、春のぽかぽか日和で気持ちよさそうにしています。まだ母親の体から離れませんが、抱っこ・おんぶと動き回っています。
 ワオキツネザルは、その名のとおり白黒のしま模様の尾が特徴です。地面を歩くときは、仲間同士の目印になるように尾を垂直に立てます。樹上では体のバランスを取るため、上下左右に尾を動かします。母親にくっついているときの子の尾は母親に密着しており、ふと見ると、しましま模様のヘビが巻き付いているようです。抱っこで移動しているときでも尾が地面に垂れ下がることはありません。木の幹から幹に横っ飛びし、素早く活発に動くので、子の尾がぶらりと垂れ下がっていると、どこかに引っ掛かり思わず転落なんてことになりかねません。だから、尾を母親に密着させているのだろうと分析しています。それにしても、体長と同じくらい長い尾を母親にずっとくっつけていて、肩凝りならぬ尾が凝らないのかな?と思います。この手紙が届く頃には、母親から離れて遊び始めているでしょう。
 母親目線で子の成長を見守っていると、私たちの子育てにもつながる発見がたくさんあります。ぜひ見に来てくださいね。

(注)5月17日(月)~5月31日(月)まで緊急事態宣言の対象地域に北海道が追加されたことに伴い、更なる感染拡大を防止し、来園者の健康を守るため、臨時休園となっております。

令和3年5月17日 

旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年4月「初めての昼夜逆転施設が誕生」

エゾモモンガ

(空中を舞う姿が見られるかも)

 新年度です。4月中旬は閉園期間中ですが、今年は予定どおりの夏期開園を迎えられるのでしょうか?予算は絞りましたが、冬の間に傷んだ施設の修繕など必要最低限のことはしっかりと行い、夏期開園を迎える準備を整えたいと考えています。
 近年、北海道の生き物たちの施設整備を行っており、東門下のゆっくりロードに、エゾタヌキ・エゾユキウサギ・キタキツネなどの施設を充実させ、加えて在来種の樹木も植えてきました。そして、今年の夏期開園に合わせてエゾモモンガの施設がオープンします。旭山動物園では初めての昼夜逆転施設です。エゾモモンガは展示していたのですが、基本は夜行性の動物なので日中は、ほぼ巣箱の中で過ごしています。「見たよ!」と言う人がいたら、ラッキーな来園者です。昨年はエゾモモンガの幼獣4頭を保護し、超久々に人工保育を行いました。手に乗せてケージから出すと、肩から足までまとわり付くように素早く動き回るのですが、あの大きな目でじっと一点を見つめ始めると、ピタッと動きが止まります。おしっこです。Tシャツやズボンに、たらーっと流れ落ちます。そのにおいが独特で…。じっと見つめるつぶらな瞳に惑わされてはいけません。エゾモモンガはリスの仲間で、旭川でも近郊の雑木林などに生息しています。厳しい冬を冬眠せずに生き抜きます。キツツキの仲間が作った木の中の空洞などをねぐらとし、子育てもそこで行います。豊かな雑木林の象徴的な存在です。
 新しくオープンするエゾモモンガ舎は夜間に照明をともし、日中を暗くすることで動物にストレスをかけずに昼夜を逆転させる環境を整えた夜行性動物舎です。「夜」活動するエゾモモンガを「昼」に観察することができます。森の妖精のような姿をぜひご覧下さい。あの滑空する姿も見られるかもしれませんよ!

令和3年4月12日 

旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年3月「大きな収穫となったSNSを使った試み」

ライブ配信

(ライブ配信の様子)

  雪あかりの動物園が、無事に終わりました。3日間という短い期間でしたが、夜間は比較的多くの市民が来園されました。小さい子供連れや若い方が多く、子供たちが雪の中を転がり回り、はしゃいでいる姿が印象的でした。もぐも
ぐタイムなどは実施できませんでしたが、静かな動物園の雰囲気はとても良かったと思います。
 新型コロナウイルス感染症は人類の問題ですから、飼育動物たちは、いつもどおり過ごせるようにと配慮してきました。冬期のキングペンギンの散歩は、時間の告知などを一切せずに実施していました。春の繁殖シーズンに向けた、健康な体づくりのために実施しているからです。ところが、市内で衰弱死したオジロワシから高病原性鳥インフルエンザが確認されました。回収地点から10キロメートル圏内は野鳥監視重点区域に指定され、旭山動物園も圏内に入りました。環境省の指針や、旭山動物園の高病原性鳥インフルエンザマニュアルに基づき、野鳥監視重点区域の指定解除まではペンギンの散歩を中止としました。新型コロナに続いて鳥インフルエンザ。絶望感にさいなまれましたが、そこはぐっとこらえ、飼育動物にも来園者にも最善の環境を整えて毎日を過ごし、明日を迎えられるように頑張らねばと心掛けています。
 今年度の大きな収穫は、SNSを利用して実施したライブ配信やイベント、会議、講義などの効果や反響の大きさでした。もちろんコロナ禍の影響による効果は大きいのですが、オンラインだからこそ実現できることや情報共有の方法は、まだまだ無限の可能性を持っていると思いました。今後の動物園での取組みにとって大きな柱になる、そんな感触を得ました。
 さて、夏期開園に向けて準備を開始します!

令和3年3月15日 

旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年2月「安心して見守れる母親の結」

ki

(きれいな顔立ちをした、結の子)

 早くも1月中旬です。相変わらず霧の中で過ごしているような日々で、時間だけが過ぎていきます。今は平穏に冬期開園を続けることに専念します。来園者数は、直近では対前年比約85%減が続いていますが、最近は、近郊に住む子供
連れの方が目立つようになりました。子供たちの笑顔に、ほっとさせられます。それにしてもスタッフの感覚が現在の状況に急速に慣れてきており、土日に1日700人くらい入園者がいると「今日は結構たくさん来ていたね!」となります。色々と考えなければならないことが山積みですが、今はこれでいいのだと納得するようにしています。
 さて、報告が遅くなりましたが、昨年の暮れにアミメキリンが誕生しました。母親の結にとっては、2度目の出産です。3年前の初産の時も落ち着いていましたが、2回目も安心して見守れる母親ぶりです。子も順調に成長しています。春までは室内での飼育になりますが、小走りできるくらい広さのある寝室で元気に過ごしています。父親のゲンキが屋外放飼場に出ていくと、結も外に出たいそぶりを見せていて、初産の時と比べるとリラックスした様子です。子は雄で、出生時に寝ていた角はきれいに立ち、鼻筋の通ったきれいな顔立ちです。親ばかなのは承知ですが、どんな子が生まれても旭山の個体が一番器量よしに見えてしまいますね。
 昨年は、1月のカバ誕生に始まり、12月のアミメキリン誕生で暮れ、とても充実した1年でした。昨年生まれた子たちの成長を見守ることも、今年の楽しみになりそうです。 
 この手紙が届く頃には、雪あかりの動物園が終わっているはず。無事に開催できたでしょうか?そんなことを思いながら、来年度の予算資料とにらめっこしつつ、この手紙を書いています。

令和3年2月15日 

旭山動物園 園長 坂東 元

ゲンちゃん日記・令和3年1月「動物の子が起こした想定外の出来事」

レッサー

 (元気いっぱいの蓮蓮) 

   新年を迎えました。この手紙を書いている12月時点では、1月になっても「明けましておめでとう」と言える状況ではないのでは、と想像しています。旭山動物園では元日にインターネットによる生配信を実施していたはずです。皆さんは、どのように新年を迎えたでしょうか?
 動物たちにとっては、いつもと変わらない日常が続いています。キングペンギンたちも元気に散歩し、冬を満喫しているでしょう。
 レッサーパンダは今シーズンも繁殖に成功し、元気に育っています。成長過程の体重と筋力のバランスによるものだと思うのですが、繁殖した子は、成長とともに想定外の出来事を起こすことが多いです。先日、レッサーパンダの蓮蓮が、放飼場と観客の間にあるコンクリートの堀に落ちてしまったのですが、自力で壁を登り、放飼場に戻りました。堀に落ちたり飛び降りることは想定済みでしたが、壁を登って観客側に出ることができるというのは想定外でした。現場を見ていた人の話によると、壁の隅に両手両足を掛け、体を横にしたり、手足を広げて体をくねらせながら登ったようです。コンクリートの壁は打ちっぱなしなので、表面には深さ2ミリメートルほどの丸い穴や細かい溝があります。そこに爪や手と足を引っ掛けて突っ張り、体の柔軟性を生かして登ったのだと思います。ロッククライミングとボルダリングの合わせ技「コンクリートクライミング」です。レッサーパンダは、手の平だけではなく後足の平も返すことができるので、他の四足歩行の動物と比べて異次元の行動能力があるのです。翌日、コンクリート表面の穴と溝を埋めました。同じ景色でも、それを見る動物によって、全く別の景色に見えているのだなと感じました。
 動物たちと同じように、人類も明るい春を迎えられるように踏ん張りましょう。

令和3年1月12日 

旭山動物園 園長 坂東 元