2021年6月のしいくのぶろぐの記事
2021年6月29日 | しいくのぶろぐ
イワトビペンギンのヒナの孵化前のお話
イワトビペンギンのヒナの孵化前のお話
しいくにゅーすでお知らせしたとおり、6月15日にイワトビペンギンが2羽孵化しました。
実は、はじめに孵化したヒナは、孵化の6日前に卵殻の一部にヒビが入り、無事に孵化できるのか、それとも孵化前に死んでしまうかと心配していた個体でした。
ヒビが入ったのを発見した時、親がら取り上げて卵を検査しました。そのとき卵の中のヒナはまだ生きているようでした。ヒビの部分は、ちょうどヒナのいない気室のところギリギリの場所で、ヒナの体に傷は付いていないかもしれないと思い、元気でいてくれと祈る気持ちですぐに孵卵器へ入れました。親にはその代わりに偽物の卵を預けました。その後、孵卵器の中で予定通り無事に孵化し、一安心。ヒナの健康状態に問題はなさそうだったので、親の偽物の卵とヒナを交換しました。親はすり替えられたとは気がついていないので、自分で孵したと思ってヒナを受け入れてくれました。
体が小さく生まれた個体ということもあり、元気に成長するのか心配でしたが、今のところ親からたくさんエサをもらって順調に育っています。体重もみるみる増えています。ヒナの期間は短いので、ぜひ早めに見にいらしてください。
卵のヒビ
孵化して二日目
ぺんぎん館・ダチョウ担当:田中千春
【はじめまして!】
今年の4月、第2こども牧場に5頭の仲間が増えました。その5頭の近況をお伝えします。
4月19日来園のヒツジのサンとニコ(どちらもメス)。来園当初は人が近づくと全力で逃げ、放飼場に出たばかりなのにすぐに小屋に帰りたがっていました。しかし、最近ではゆっくり近づくと逃げることも少なくなり、少しずつ行動範囲が広がっています。また、臨時休園期間中には毛刈りを行いました。毛でモコモコの姿しか知らなかった私は「え、こんなにスリムだったんだ!」と驚いたものです。皆さんも夏仕様のサンとニコをぜひ見に来てください。
夏仕様のサン(左)とニコ(右)
次に、4月30日来園のヤギのもみじ、よもぎ、こむぎ(3頭ともメス)です。
この3頭はまだ成長の途中なこともあり、日々小さな変化を感じています。なかでもこむぎは成長が著しく、徐々に角が見えてきたり体が大きくなるなどの外見の成長はもちろん、1頭で橋を駆け回ったり先住ヤギに近づいていったり(先住ヤギははじめは気にしていましたが最近はあまり気にしていないようです)と行動の面も変化を感じます。
とはいえ、まだ生後2か月の仔ヤギです。まだまだ子どもらしい一面も見られます。大人の階段を登るこむぎを温かく見守っていただきたいです。
来園当初のよもぎ(左)とこむぎ(右)
今のこむぎ
もみじ
そういう私も4月来園の飼育員。旭山歴は5頭とほとんど変わりません。5頭の同期と一緒に旭山動物園に慣れていけたらと思っています。
新しく仲間に加わった5頭を今後もよろしくお願いします!
(こども牧場担当:泉 小春)
2021年6月9日 | しいくのぶろぐ
動物と書の融合「動物墨画パフォーマス甲子園」
動物と書の融合「動物墨画パフォーマス甲子園」
旭山動物園で広報を担当している松尾です。
飼育担当ではありませんが、今回、新しい取組の実施に当たり、特設のホームページを開設しましたので、ご案内をさせていただきます。
本園では、動物の飼育・展示のほか、様々な事業を行っておりますが、中高生や、大学生を対象にした事業は少なく、何か一緒に、連携した取組はできないものか考えていたところ、過去に携わったイベントの関係で、筆耕いただいた書道の先生からいただいた名刺に、描かれていた「ペンギン」のことを思い出しました。その絵は、黒色の濃淡により、愛くるしくも、今にも動き出しそうな躍動に満ちたものでした。
「これだ!・・・。」
しかし、墨画のコンクールとなれば、対象はおそらく限られてしまうし、絵画コンクールもこれから実施する予定で、何かイベントチックにはできないものかと思い描いていたところ、市内の催事等で、書道パフォーマンスが行われていることに気付き、大きな用紙に動物の絵を主体とする墨画そして、メッセージを書いてもらうという、旭山独自のスタイルを考案しました。
その対象として、これまでに連携した事業の取組が少なく、書道パフォーマンスの実施経験があり、複数の参加が期待できる市内の高等学校と連携して行わせていただくことになりました。
その後、高等学校書道部顧問の先生にも相談させていただき、実施手法や審査基準を設定して、今回、ホームページを開設する運びとなりました。このページを通じて進捗情報をお知らせし、開催への機運を高めていければと考えています。参加校の紹介につきましては、次回の更新にあわせて行う予定です。
(園内・広報担当 松尾 英将)
本事業PRイラスト(オオワシが筆を運んでいる様子をイメージ)
【ケンとマース】
シンリンオオカミ・マースの一生は波乱に満ちていた、といえるでしょう。
1才足らずでカナダから旭山にやってきて、早々に他のオオカミに前足を咬まれ、大けがを負ってしまいました。
連日、獣医に吹矢を撃たれ麻酔治療。計り知れない肉体的・精神的ダメージを負いましたが、懸命な治療によりなんとか快復しました。
そして2011年に出産し、マースはついに母親に。マースは通算9頭もの子をもうけ、群れの立派なαメスとなりました。
仲睦まじい(ロックしている)ケン&マース
うれしい反面、新たな不安も生まれました。オオカミの群れは上下関係が厳しく、順位闘争に負けたものは群れを追い出されたり、殺される場合もある、といわれます。オオカミを野生に近い「群れ飼育」する以上、野生同様の悲劇が起きる可能性を否定できないのです。
オオカミは寿命が短く、子はどんどん成長する一方、親はどんどん年老いていく。いつか力関係が逆転したときにどうなるか?前足に後遺症が残るマースの事は特に気がかりでした。
頂上に立つマースと子供たち
しかし結果的にはケンもマースも天寿を全うし、心配したような闘争はありませんでした。おっとりした性格のマースは早々にαメスの地位から陥落しましたが、隠居オオカミ?として群れでの居場所を見つけたようでした。
オオカミの群れは決して「仲良しファミリー」などと綺麗事では語れない。けれども、残酷なだけでもない。本やネットの知識だけではわからない、オオカミ社会の奥深さをケンとマースから学びました。
マースの一生を見届けたことで、怪我をさせてしまったマースに少しでも償うことができていたら嬉しく思います。
旭山での一生は幸せなものだったかい?
オオカミ担当は自分の飼育係人生で大きな転機となりました。ケンとマースから学んだ多くの事をこれからの担当動物に活かし続ける限り、彼らは僕の中でいつまでも生き続けてくれる、そんな気がします。
(アフリカ水槽・???担当:大西 敏文)
【扉いろいろ】
動物園の飼育員にとって最も重要な仕事の一つに獣舎のカギの管理があります。飼育動物はさまざまですが、いわゆる猛獣や大型類人猿など危険な動物もいます。これら人間にとって危険な動物の場合は、カギのミスが飼育員をはじめとする人命を危険にさらす、重大な事態に繋がってしまいます。もちろん小型、中型の動物であっても逃がしてしまわないよう、常にカギの管理は徹底しています。
カギの重要性はみなさんにとっても分かりやすいと思いますが、今回はそのカギを掛ける対象、つまり獣舎の扉について紹介していきます。
各獣舎には飼育員が作業で出入りするための扉が必ずあるのですが、この扉は獣舎ごとに違います。扉にカギを掛けるのは安全管理として当然ですが、カギをしっかり掛けたとしても扉自体が破壊されてしまっては元も子もありません。動物によって扉の強度が違うわけです。猛獣系にはがっちりした扉が必要ですが、力の弱い小型の動物ならばそこまでの強度は必要ありません。
例として3つの扉を紹介します。
1つ目はカラスの扉です。
カラスは知能が高く、器用で、目も非常に良いので、カギをかけ忘れると自分でかんぬきを外して扉を開けてしまう恐れすらありますが、力は弱いです。扉は軽めでさほど強度は高めておらず、かんぬきは1つです。
2つ目はライオンやトラの寝室扉です。
大きく重く頑丈で、かんぬきは2つです。彼らが扉に全体重でのしかかったり、勢いをつけて体当たりしたり、ヘビー級ネコパンチを繰り出したとしてもびくともしない強度に作られています。
3つ目はオランウータンの寝室扉です。
オランウータンの獣舎は元々ゴリラで使われていたもので、ゴリラに次ぐ大きさとパワーを持つ大型類人猿オランウータンも同程度の扉強度が必要と考えられます。
オランウータン用の扉はホッキョクグマ、ヒグマの扉と並んで現在の旭山動物園で最も強靱な扉の1つです。
非常に重くゴツゴツしており、かんぬきは3つです。
動物のもつパワーや体重、危険度でいえば、オランウータンよりもトラ、ライオンの方が上です。しかし扉の強度的に言えばオランウータンの方がよりゴツく、強力につくられているように見えます。かんぬきの数も多いです。
これには理由があり、扉の強度は動物の体重やパワーだけで無く、「扉に対してどのような力を加えることができるのか」も含めて考えなければならないからです。
トラやライオンのパワーは恐るべきものですが、扉への力のかかり方は限定的です。大抵はグーっと押されるか、大きな衝撃がドンとくるかのどちらかでしょう。
しかしオランウータン(チンパンジーも同様)の場合は全く違ってきます。
人間とは桁の違うパワーで扉を押す、引く、たたきつける、ガンガン前後に揺らすなど、扉にかかる力の向きは実質360度で、瞬間的な大きな衝撃もあれば、小刻みに衝撃を与え続けられたりと非常に多彩です(実際にやるかどうかは別として、それが可能であるという認識をもつことが安全管理の面で重要)。
扉は金属製なので、こわいのは金属疲労の蓄積、その蓄積という面で大型類人猿が扉に与える力は驚異で、十二分な扉強度が必要になるわけです。
ということで今回は扉に着目してマニアックな話をしましたが、次はもっとマニアックな話のネタをなにか考えておこうと思います。
それでは!