【ケンとマース】

最終更新日 2021年6月5日

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【ケンとマース】

 シンリンオオカミ・マースの一生は波乱に満ちていた、といえるでしょう。

 1才足らずでカナダから旭山にやってきて、早々に他のオオカミに前足を咬まれ、大けがを負ってしまいました。

 連日、獣医に吹矢を撃たれ麻酔治療。計り知れない肉体的・精神的ダメージを負いましたが、懸命な治療によりなんとか快復しました。

 そして2011年に出産し、マースはついに母親に。マースは通算9頭もの子をもうけ、群れの立派なαメスとなりました。

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仲睦まじい(ロックしている)ケン&マース

 うれしい反面、新たな不安も生まれました。オオカミの群れは上下関係が厳しく、順位闘争に負けたものは群れを追い出されたり、殺される場合もある、といわれます。オオカミを野生に近い「群れ飼育」する以上、野生同様の悲劇が起きる可能性を否定できないのです。

 オオカミは寿命が短く、子はどんどん成長する一方、親はどんどん年老いていく。いつか力関係が逆転したときにどうなるか?前足に後遺症が残るマースの事は特に気がかりでした。

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頂上に立つマースと子供たち

 しかし結果的にはケンもマースも天寿を全うし、心配したような闘争はありませんでした。おっとりした性格のマースは早々にαメスの地位から陥落しましたが、隠居オオカミ?として群れでの居場所を見つけたようでした。

 オオカミの群れは決して「仲良しファミリー」などと綺麗事では語れない。けれども、残酷なだけでもない。本やネットの知識だけではわからない、オオカミ社会の奥深さをケンとマースから学びました。

 マースの一生を見届けたことで、怪我をさせてしまったマースに少しでも償うことができていたら嬉しく思います。

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旭山での一生は幸せなものだったかい?

 オオカミ担当は自分の飼育係人生で大きな転機となりました。ケンとマースから学んだ多くの事をこれからの担当動物に活かし続ける限り、彼らは僕の中でいつまでも生き続けてくれる、そんな気がします。

(アフリカ水槽・???担当:大西 敏文)