ゲンちゃん日記・令和2年1月「『よだかの星』のヨタカを保護」

最終更新日 2020年1月25日

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ゲンちゃん日記・令和2年1月「『よだかの星』のヨタカを保護」

ヨタカ

(写真:ヨタカ)

 新しい年がやってきました。今年はオリンピック一色の年になるのでしょうか?

 旭山動物園では現在チンパンジーの森とサル舎のリフォーム工事が続いています。春の開園からのオープンを目指しています。春の開園時には東門下のゆっくりロードにキタキツネ、ユキウサギの新施設のオープンも予定しています。大型の施設のオープンはありませんがより充実した旭山動物園を目指します。 

 昨年は、個人的に思い入れの深い野鳥が保護されてきて、現在も飼育事務所で飼育を継続しています。宮沢賢治「よだかの星」のヨタカです。子供の頃の教科書か副読本で読んで強く記憶が残っていました。30年程前に奇妙な姿の野鳥が保護されてきました。一見幼鳥のように柔らかくて異常に大きく開く嘴、大きな目、華奢で小さな足、小型猛禽のような羽色、うなるような鳴き声…。現在のようにインターネット環境がない時代でしたから、図鑑や雑誌などをあさりこの鳥がヨタカであることを突き止めました。教科書の中の鳥が現実に目の前にいる!しかも驚くほど正確な描写だったことに驚きました。

 飛びながら口を大きく開き、口の中に飛び込んだ昆虫をそのまま丸呑みする、嘴にははさむ機能があるとは思えません。なんとも不思議な鳥です。

 保護された野鳥で一番難しいのは餌付けです。骨折などの治療以前に餌を食べなければ死んでしまいます。強制的に食べさせることから始めるのですが、この強制給餌は鳥にとって強いストレスです。いかに早く与えた餌を自分で食べるようにさせるのかが重要な技術になります。過去数回ヨタカの保護があり餌を口元に持って行くと口を開け、餌を口に入れると食べるようにまではなりましたが、置いてある餌は食べません。生きている昆虫でも地面を動くものには見向きもしません。嘴でつまみあげるという行動をしないのです。どの個体も複雑骨折などで状態が悪く長くは生きませんでした。

 昨年秋、多分約20年ぶりに翼の骨折でヨタカが保護されてきました。事故後すぐに保護されていて衰弱も見られませんでした。もう飛べる状態には戻りませんが、口元に餌を持って行くと大きな口を開け喉元に餌を落とすと飲み込む様になりました。毎日一日3回数名のスタッフで餌を与えています。

 採食時以外はほぼ動きはなく木の枝のようです。ヨタカはあの小説のなんとも切ない夜鷹ではなく森の分身のように凜とした存在に見えます。

旭山動物園 園長 坂東 元