ゲンちゃん日記・平成31年5月「3月生まれのゴマフアザラシの子」

最終更新日 2019年5月15日

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ゲンちゃん日記・平成31年5月「3月生まれのゴマフアザラシの子」

アザラシ

(写真:ぽちゃ丸(右)とその子)

 さてこの手紙が届く頃には桜の季節も終わっているのでしょう。今はまだ4月の上旬、近年になく根雪がなくなりません。久しぶりにペンギンの散歩も冬期閉園まで続きました。4月は新年度新たな門出の月ですね。動物園でも「人事異動」がありました。思えばたくさんの職員を送り出してきました。また退職でたくさんの方の背に頭を下げてきました。そしてたくさんの動物たちも新天地に送り出してきました。振り返る余裕がなくあっという間に年を重ねてきましたが、さすがにこの時期だけは様々なことを思い出します。皆さんはどんな春を迎えているのでしょうか?

 今年の雪解けは嬉しいことがありました。ゴマフアザラシの仔が2頭続けて生まれ、しかも2頭とも親が哺育をしています。実は複数の親が同時に哺育したのは旭山では初めてのことです。一昨年も同じ親がそれぞれ出産したのですが、一頭は親が育児をしなかったため(育児放棄)人工保育となっていました。

 親が産んだ仔を我が仔と認識することは実は当たり前のことではありません。子育ては母親にとってとても重い負担やリスクや覚悟を背負うことでもあります。

 母性に基づく親子の絆を結べるタイムリミットはアザラシの場合出産後約1~2時間以内なのかと思います。陣痛、出産、仔と向き合い匂いを嗅ぎ鳴き声を聞く、仔が動き乳首を探る…。一連の行動が滞りなく行われて親子の絆が結ばれます。例えば出産中にカラスに取り囲まれる、仔が生まれてすぐに親から離れる方向に移動してしまう、あるいは水中に落ちてしまう、仔が鳴かない…、一連の行動がどこかで中断したまま約1~2時間以上経過してしまうと母性のスイッチがオフになり産んだ仔を我が仔と認識せずに育児放棄となってしまいます。

 アザラシに限らず妊娠すると出産、これは生理機能ですが、出産する環境がそもそも母性のスイッチが入らない環境の場合も育児放棄は起きます。飼育下の場合この環境作りが一番大切なことになります。中途半端なヒトの介入も母性のスイッチを切ってしまうことにつながりかねません。

 現在一頭の仔の成長が極端に遅いため補助的に特製ミルク入りホッケを強制給餌しています。母親はちゃんと育児を継続しています。 

 真っ白な体毛の期間は3週間程度、夏期開園を迎える日には、子育て期間は終わっていて、仔は自立しています。小さな「ゴマちゃん」になっています。仔の名前も決まっていることでしょう。

旭山動物園 園長 坂東 元