平成18年1月 「「2006」 年頭に」

最終更新日 2006年1月2日

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あけましておめでとうございます。
年々、正月の三が日も特別な日ではなくなってきていますね。
うちも2日から営業開始です。
当然、飼育係に正月はないのですが、
昔は大晦日ともなれば町の明かりは消えて元旦の出勤時は人の気配すらなかったものです。
自分は「頑張っているんだな」なんて自己満足に浸っていた頃が懐かしいです。
日本は生活風習や伝統をどこまでなくしてしまうのでしょう?

今年の冬、旭山の冬の風物詩として定着した感のあるペンギンの散歩、
これに合わせて沢山の方が来園されるようになりました。
12月は前の年の同月比でなんと300%にもなりました。
でも、聞かれるのは
「中に人間が入っているみたい、かわいい~」「どうやって馴らしたの?」
「ヒナは行進させないの?」「散歩のご褒美は何?」といったことばかりです。

ペンギンがヨチヨチした生き物なのは陸上に天敵のいない地域で進化した結果です。
陸上にいる生き物に対して警戒心がとても弱いのです。
そして集団で海まで歩き、エサを捕ったらまた歩いて帰ってくる習性があるのです。
ありのままをありのままにさせているだけなのです。
だから散歩なのです。
一切調教や制御はしていないのです。
音楽を鳴らしたり、着ぐるみを着た人が先導をしたりと
意図的に付加価値をつけてパレードやショウに仕立て上げている様子を見ると悲しくなります。
どうして自分たちの価値観の範囲内でしか動物を見せようとしないのでしょう、
見ようとしないのでしょう?
ありのままがいかに美しく尊いのかを感じて欲しいと願います。
新たな価値観を見いだしたり、見方が生まれてきて欲しいと願います。

ヒト以外の生き物は「今以上」を求めません。
ヒトだけは常に「今以上」を求め続けます。
その結果、地球上の原子や分子の総量は変わりませんから
ヒトや自分たちだけのためのものがあふれかえり、ヒトのため以外のものは減り続けています。
そして、ヒトはいらなくなったものを無責任に地球上にばらまいています。
地球がヒトのわがままをこれ以上受け入れられないところまで来ています。
きっと気象異常や動物たちの惨状を伝えるニュースが増えるでしょう。
その時「今がよければいいじゃない、可愛いんだからいいじゃない、
飽きたら次を探せばいいじゃない」。
今の価値観で地球を生き物たちを守れるのでしょうか?
都合が悪くなると誰かが何とかすればいい、そんな程度にしか感じないのではないでしょうか。
動物たちそれぞれの素晴らしさ、かけがえのなさがたくさんの人の心に刻まれること、
それがそれこそが地球を生き物たちを守る原動力になるのだと思います。
知らなければ守れない、何も感じない。
だから動物園は必要なのではないでしょうか。
守るのも滅ぼすのもヒトなのですから。

昨年暮れ「レッサーパンダを飼ってみよう」といった主旨の番組を見てしまいました。
ペットのように手なずけて飼う、あり得ない番組です。
彼らはヒトのための動物ではありません。
サンタの服を着せられたペンギンやアザラシが新聞で紹介されていました。
みなその時だけのウケを狙った確信犯に思えます。

日本人は山に風に木に生き物に神を感じ自然と共に生きてきたはずです。
それはかわいらしさや仲良くではないお互いを認め合う「調和」だったはずです。
科学的ではなかったかもしれませんが、誇れるものだったと思います。
西洋的な合理的、科学的に管理する、支配するといった精神とは違ったものでした。
今の日本は生活がどっぷりと西洋的になり
いつの間にか曖昧な感情だけが残った結果なのでしょうか。 

動物園に限らず、将来に明確な夢を持って、
今がそのための方法であり手段であって欲しいと願います。
今の子供たちの将来のため、未来の地球のために...

旭山の今年のテーマは「感じて 野生」です。信じることを続けるのみです。