2016年4月のしいくのぶろぐの記事
【108日目】
昨年のアムールトラの出産は、自然哺育もさせられず、人工哺育も失敗、という惨めな結果に終わりました。
しかし、ザリアは少なくとも「交尾→妊娠→出産」までは可能な個体である、という証明にはなりました。
今回の繁殖では「ザリアにしっかり育児をしてもらうこと」を目標に準備しました。
トラの人工哺育個体は、うまく繁殖できない個体になってしまうケースが多くあります。
キリル&ザリアの貴重な血統を未来まで繋いでいくためには「自然哺育」であることが重要だったのです。
産室を拡大し、ザリアがより落ち着ける環境を作りました。
昨年は8月に産室が完成し、9月出産。ザリアを産室に慣らす期間は一か月だけでした。
今回は産室改造が終わった12月からキリルとザリアを同居・交尾させ、妊娠期間の約100日間、産室にじっくり慣れさせたのち、春に出産、となるように計算しました。
とはいえ、「ザリアが今度こそ育児してくれるかどうか?」は、出産してみなければわからないことでした。
万が一に備え、前回の人工哺育で使った道具は用意しておきました。
そして迎えた4月8日、最終交尾日から108日目。
朝8:30にもうじゅう館へ行き、モニターを覗いてみると・・・なんと!ザリアが1頭の子を出産し、なめているではありませんか!
「よし!ちゃんと育児しているぞ!」ザリアは育児ができるトラでした。前回の育児放棄も、やはり環境に慣れていないだけだったのです。
VTRを巻き戻してみると、一頭目が生まれたのはぼくが着く4分前、8:26でした。「しまった!通勤途中でスタンドに寄らなければ、リアルタイムで出産を見れたかも」などと思いながら。
その後9:38に2頭目、11:25に3頭目を出産。3頭目は残念ながら死産でしたが、2頭の子はザリアに体をなめてもらい、元気に動き出しました。
そして15:00には2頭とも、ザリアの乳首にたどり着きました。
まだ目も開いていない、這いずることしかできない子ですが、自力で母親の乳首にたどり着き、吸い付くのです。野生の逞しさを感じます。
その後、2頭の子は母の愛を受けてぐんぐん成長し、4月28日で21日齢となりました。
まだ安心はできませんが、人工哺育の時とは比べ物にならないほど順調に生育し、まるまると太っています。
放飼場でみなさんにお披露目するのはもう少し先になりそうですが、今から楽しみです。
それまでの間、またHPで成長の様子をご報告したいと思っています。
このまま生育してくれれば、「昨年の失敗を失敗で終わらせず、今年の成功に繋ることができた」ということになります。
2頭のチビたち、元気に育てよ!
去年生かしてあげられなかった、3頭のぶんまで!
もうじゅう館担当:大西敏文
【12日間】
少し昔の話をしましょう。
昨年・2015年9月9日、アムールトラのザリアが出産しました。
しかし、産室の環境に馴染んでいなかったザリアは育児放棄してしまいました。
やむなく、回収した子3頭は人工哺育することになりました。
毎日3時間おきに哺乳瓶で授乳。深夜は担当者、早朝は獣医と交替でおこないました。
初めて子が哺乳瓶にチュッチュッと吸い付いたときは、思わずホッとしました。
子も懸命に生きようとしている。
動物用ミルクの在庫はわずかだったので、急きょ大量に発注をかけました。
本来、子の糞尿は母親が舐めとってしまいます。授乳の後は、ぬるま湯で濡らしたペーパータオルを母親の舌に見立て、おしりをトントンして排便・排尿を促します。
しかしそんな人工哺育が始まって間もなく・・・生後2日目にはメスの子1頭が死亡してしまいました。
さらに3日目にはもう1頭のメスも死亡。
残るはオス1頭のみ。この1頭だけでも、なんとか生かさなければ。
トラは体重の性差が大きく、出生直後でもメス900gに対し、オスは1200gでした。動きも活発で、最も生育が見込まれました。
オスの子はミルクもよく飲み、体重も順調に増えていきました。
この間に、獣医が他の動物園に電話して、トラ人工哺育のデータやノウハウを教えていただいたので、それを参考にミルクの量を計算していきました。
9月20日、生後12日目には体重1850gに成長していました。
なんとか軌道に乗ってくれたか、と思われた矢先・・・9月20日夜に容体が急変し、最後の1頭もあっけなく死亡しました。
最後の子が死ぬ間際、それまで閉じていた瞳がうっすらと開きました。瞳は美しいキトン・ブルーでした。
その瞳にぼくの姿は映っていたのでしょうか。
トラ育児生活は、わずか12日間で終わりました。
自分にでき得るすべてを投じるつもりでのぞんだ人工哺育でしたが、1頭も生かすことはできませんでした。
挫折感と睡眠不足による疲労で、ただ茫然とするしかありませんでした。
もはや使い道のなくなった大量のミルクが、むなしく積みあげられていました。
今からちょうど半年前の出来事でした。
(つづく)
もうじゅう館担当:大西敏文
2016年4月20日 | しいくのぶろぐ
モユクカムイ89号が完成しました!
モユクカムイ89号が完成しました!
今回の表紙は、イボイノシシ(オス・ドゥニア)です!
「モユクカムイ」は、飼育展示スタッフ手作りの情報誌です。
日々、変化していく動物たちの様子や動物園のできごとなど、現場のスタッフだからこそ知ることのできる情報が盛りだくさん。
動物園に遊びに来た際には、ぜひ手にとってみてください!
もくじ
- ぼくは動物大使・その50「アフリカの大地を駆ける!イボイノシシ」
- 特集「きりん舎・かば館徹底解剖」
- 飼育研究レポート「キジバトの人工ふ化・育雛」
- 海外ZOO訪問記「香港海洋公園・2014年9月」
- 主なできごと「雪あかりの動物園・無事終了!」
入手方法
夏期開園(4月29日~)以降は、動物園東門管理事務所、園内サポートセンター、動物図書館で入手することができます。
また、郵送での取扱いも行っています。詳しくは旭山動物園までお問い合わせください。
2016年4月6日 | しいくのぶろぐ
カバも春の陽気を感じて
カバも春の陽気を感じて
雪解けもすすんで旭川市も3月30日で積雪ゼロになりました。通勤途中、ハクチョウの群れが飛んでいたり田んぼで餌をついばんだりする様子も見られました。しかし残念なことに道のあちらこちらでゴミが落ちています・・・。着々と季節は変わります。
旭山も4月7日で冬期開園が終わり夏期開園へ向けて3週間ほど閉園となります。私も飼育員になり、はや3年がたちました。この間いろんなことがたくさんありました・・・・。
カバの百吉と旭子。冬の寒さから春のおとずれを感じて、屋外へ出て行く姿も足取りも軽く2頭とも天気の良い日は気持ちよさそうにうたた寝しています。お互いも意識し始め成長を伺えます。体も大きくなり(まだまだかなぁ~)本当に楽しみですね。一緒になるのはいつ頃かな・・・これも楽しみです。
気持ちよさそうにうたた寝の百吉
食欲の春?でしょうか?旭子
かば館・タンチョウ担当:高井正彦
2016年4月3日 | しいくのぶろぐ
野依科学奨励賞を受賞しました&お世話になりました
「野依科学奨励賞を受賞しました&お世話になりました」
みなさん、こんにちは。どーも、ロン毛です。
さて、「お知らせ」にも投稿されていますが、このたびロン毛は平成27年度の「野依科学奨励賞」を受賞いたしました!
10年以上、旭山動物園で行ってきた学校との教育連携についての取り組みが評価されての受賞です。
野依先生と記念撮影しました
その授賞式が3月30日に東京で行われ、表彰状を受け取って参りました。
ノーベル化学賞受賞者の野依良治先生から直接表彰状を受け取ったのですが、大変名誉な時間でした。
表彰状には、「
子どもたちの
みずみずしい感性を育んだ
あなたの努力を
讃えるとともに
今後の活躍に
期待をこめて
」とあります。
受け取った表彰状
・・・・・・
動物園から異動することになりましたが、表彰状の言葉を胸に今後とも頑張ります。
これまで大変お世話になりました。そして、これからも旭山動物園をどうぞよろしくお願いいたします。
奥山 英登