【扉いろいろ】

最終更新日 2021年6月3日

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【扉いろいろ】

 動物園の飼育員にとって最も重要な仕事の一つに獣舎のカギの管理があります。飼育動物はさまざまですが、いわゆる猛獣や大型類人猿など危険な動物もいます。これら人間にとって危険な動物の場合は、カギのミスが飼育員をはじめとする人命を危険にさらす、重大な事態に繋がってしまいます。もちろん小型、中型の動物であっても逃がしてしまわないよう、常にカギの管理は徹底しています。

 カギの重要性はみなさんにとっても分かりやすいと思いますが、今回はそのカギを掛ける対象、つまり獣舎の扉について紹介していきます。

 各獣舎には飼育員が作業で出入りするための扉が必ずあるのですが、この扉は獣舎ごとに違います。扉にカギを掛けるのは安全管理として当然ですが、カギをしっかり掛けたとしても扉自体が破壊されてしまっては元も子もありません。動物によって扉の強度が違うわけです。猛獣系にはがっちりした扉が必要ですが、力の弱い小型の動物ならばそこまでの強度は必要ありません。

 例として3つの扉を紹介します。

1 

 1つ目はカラスの扉です。

 カラスは知能が高く、器用で、目も非常に良いので、カギをかけ忘れると自分でかんぬきを外して扉を開けてしまう恐れすらありますが、力は弱いです。扉は軽めでさほど強度は高めておらず、かんぬきは1つです。

2 

 2つ目はライオンやトラの寝室扉です。

 大きく重く頑丈で、かんぬきは2つです。彼らが扉に全体重でのしかかったり、勢いをつけて体当たりしたり、ヘビー級ネコパンチを繰り出したとしてもびくともしない強度に作られています。

3 

 3つ目はオランウータンの寝室扉です。

 オランウータンの獣舎は元々ゴリラで使われていたもので、ゴリラに次ぐ大きさとパワーを持つ大型類人猿オランウータンも同程度の扉強度が必要と考えられます。

 オランウータン用の扉はホッキョクグマ、ヒグマの扉と並んで現在の旭山動物園で最も強靱な扉の1つです。

 非常に重くゴツゴツしており、かんぬきは3つです。

 動物のもつパワーや体重、危険度でいえば、オランウータンよりもトラ、ライオンの方が上です。しかし扉の強度的に言えばオランウータンの方がよりゴツく、強力につくられているように見えます。かんぬきの数も多いです。

 これには理由があり、扉の強度は動物の体重やパワーだけで無く、「扉に対してどのような力を加えることができるのか」も含めて考えなければならないからです。

 トラやライオンのパワーは恐るべきものですが、扉への力のかかり方は限定的です。大抵はグーっと押されるか、大きな衝撃がドンとくるかのどちらかでしょう。

 しかしオランウータン(チンパンジーも同様)の場合は全く違ってきます。

 人間とは桁の違うパワーで扉を押す、引く、たたきつける、ガンガン前後に揺らすなど、扉にかかる力の向きは実質360度で、瞬間的な大きな衝撃もあれば、小刻みに衝撃を与え続けられたりと非常に多彩です(実際にやるかどうかは別として、それが可能であるという認識をもつことが安全管理の面で重要)。

 扉は金属製なので、こわいのは金属疲労の蓄積、その蓄積という面で大型類人猿が扉に与える力は驚異で、十二分な扉強度が必要になるわけです。

 ということで今回は扉に着目してマニアックな話をしましたが、次はもっとマニアックな話のネタをなにか考えておこうと思います。

 それでは!

オランウータン・北海道産動物(草食系・野鳥系)担当:中野 奈央也)