旭山にゅーす・ぶろぐ

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2010年8月のすべての記事

ゲンちゃん日記の更新が大変遅くなり申し訳ありません。

7月17日知床が世界自然遺産登録5周年を迎えました。
ウトロでの記念式典で講演をする機会をいただき、
知床に行って来ました。

思い返せばゴマフアザラシの施設を建築したのが6年前、
5年前は200万人をこえる想像もしなかった来園者が訪れた年でした。
北海道を代表する冬の使者ゴマフアザラシ。
当時、他の園館の人に次はゴマフアザラシの施設を考えているんだ、
と言うとなんでアザラシ?と不思議な顔をされたのを思い出します。
あざらし館は日本の動物をパンダやコアラ、
ラッコと同じ主役として扱った日本で最初の施設でした。

知床も驚く程たくさんの観光客が押し寄せるようになり、
現地の人たちにはとまどいの方が大きかったことと思います。
収容能力を超える観光客が訪れる中で
何を伝えられているんだろうという不安、
観光客数が落ちると、地域経済の視点からの議論…
知床と旭山には驚く程の共通点があります。

知床に滞在してあえて観光客と同じ目線で観光船に乗ったり、
試験的に行っている知床五湖を
ガイド付きで回るツアーに参加するなどしました。

知床岬までの観光船からは、海岸縁に親子のヒグマが2組、
単独行動のヒグマを2頭見ました。
海岸に打ち上げられた魚や海藻などを探していました。
ヒグマのそばの草地にはエゾシカの群れ、
海岸の流木の上には巣立ちをした若鳥を連れたオジロワシ、
海面にはトドやイルカの死体が漂流し、
崖にはオオセグトカモメなどの繁殖地がありました。

夜には海に近い道路沿いで海の魚を狙ってシマフクロウが現れました。
海面にはサケ漁のための無数のオレンジ色のウキが浮いていました。
海岸を接点として陸の豊かさと海の豊かさが一体となり、
そこに人の生活もとけ込んで見えました。
やはり知床は圧倒的な包容力のある自然が残る大地でした。

その一方で、ヒトと動物との距離の異常な近さ、
異様な振る舞い、異常な景色にも圧倒されました。
ガイドについてもらった五湖ツアーでは、20メートルもないくらいの距離に
ヒグマの親子が現れました。
エゾシカは触れる距離まで近づくことができます。
道路沿いのシカは車が通りすぎても、
耳すら動かさずに無警戒に餌を食べ続けています。
高さ50センチくらいに刈り込まれたようなクマイザサの草原、
管理された公園のようにヤブこぎをしなくても川まで行ける河川敷、
ハンゴウンソウ、ワラビ、外来種のアメリカオニアザミ等だけが
不気味に繁茂していました。
数メートル程度の若木がないスカスカの森が
いっそう不気味さを引き立てていました。
すべてエゾシカの食害の結果です。

世界自然遺産知床はどのような未来のスケッチを描き目指すのか?
伝えるべきは表面上の豊かな自然ではないのだと思いました。

 

                 

              見てきた知床の風景(ゲンちゃん画伯)

お盆過ぎだというのに残暑というかいつまで夏が続くのか?
といった状態です。
やはり気候変動を強く意識させる夏でした。
秋に向かってうれしい忙しさが増えてきました。

地元旭川の永山新川でハクチョウなど水鳥への餌付けに関すること、
日本を代表する動物園の立場から取り組んでいる
ボルネオへの恩返しプロジェクトに関すること、
具体的なかたちとして成果が実を結び始めます。

どちらもこれから私たちがどのように地球上で暮らしていくのかを考え
行動するきっかけになってくれることを期待しています。

もう一つ、北海道の未来を考える時、
エゾシカの個体数増加の問題は最重要課題です。
北海道庁も本腰を入れ始めましたが、
エゾシカと自然環境とヒトとの共存のツールとして
現在は鉄砲と柵しかありません。

第3のツールとしてイヌの可能性を探る活動に
旭山動物園も深く関わりを持っています。
イヌの能力とエゾシカの関係を探る第2回目の実験を秋にする予定です。
現在実用の可能性を探っているのはボーダーコリーです。
素晴らしい能力を持つイヌです。

旭山動物園のこども牧場にもいるのでご存じの方も多いかも知れません。
ディスクを投げると空中でキャッチするのですが、
ボーダーコリーは先回りをしてキャッチしようとします。
牧羊犬としての血です。
イヌの犬種は見た目のためではなく、
ヒトが期待する役割によって作り出されたことを実感します。

みなさんんもイヌを飼っていたら
自分のイヌがどのような目的で作り出されたのかを
調べてみたらどうでしょうか?
もしかしたら、どうしてこんなことができないの?
どうしてこんなことをするの?
とイライラしていたことがそうだったんだ!
と理解してあげられるかも知れません。

旭川市は動物愛護センターの設立に向けて準備を進めています。
ヒトとペット(伴侶動物)との理想の関係を目指すことになります。
この中で飼育を放棄され安楽殺ぜざるを得ない
飼い犬の問題は避けてとおれません。
この問題の原点は大多数が
飼い主側のイヌに対する理解不足が原因です。
イヌの側は常に飼い主を理解しようとし、関係を築こうとしています。

ヒト、家畜、ペット、野生動物
すべての命が共存できる未来にしたいと強く思います。

                 

      こども牧場にいるゴールデンレトリーバー「チャンティ」(ゲンちゃん画伯)